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第157話 老闘士の嘆息の時間

 カーンは自分の体が思った以上に疲れていることを感じていた。嵯峨の毒舌は予想の範囲内だったが、その圧倒的存在感にかなり驚きを隠せない自分に戸惑っていた。

「私も年かな……。彼の話は面白かったがあの敵意を向けられるのはどうにも疲れるような体になってしまった。だが、面白いことになりそうだ」

 そう独り言を言うと甘いものでも頼もうと呼び鈴に手をかけた。そして嵯峨から渡された写真の一枚に視線を落とすと、その温厚そうな表情は一変して残忍な笑みを浮かべた。

「『廃帝ハド』との我々との繋がり……どこまで知っている、嵯峨惟基」

 カーンはそう言って手にした写真を興味深げに手に取った。

「この写真を私に見せに来たと言うことは何も知らないのか……」

 そう言ってカーンは笑顔を浮かべるが、その顔は急に憎しみに滾った憎悪のそれに代わる。

「そんなはずは無い!あの男は知っている。こちらから『廃帝ハド』への支援がなされていることくらいすべてお見通しのはずだ!私を舐めているのか?それだけではない、これは我々に対するあの男の宣戦布告だ」

 カーンは興奮に息を切らせながらそこまで言うとようやく安心したように静かに息を整え直した。

「まあ良いだろう。受けて立とう。敵が多くなればなるほどゲームは面白くなるものだ。その敵として君は十分な資格を持っている。歓迎するよ、遼帝国皇帝『献帝陛下』」

 カーンは嵯峨を『献帝』の名で呼び、満足したように食後のコーヒーを頼もうとテーブルに据え付けられたベルを鳴らした。

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