第2話 死亡日 The day of the first death
「起きて サトー」
「ん、もう着いたのか」
車の中で目が覚める。
染衣に身をまとった女性が後部座席のドアを開ける。
「まったく遅くまで涅槃経の原文でも読んでたんでしょ。」
「分からないなりに調べながらだけどね。
アマ姉も学生時代は」
「私の真似はしなくていいの」
バタンと女性が車のドアを開ける。
「アマ姉は関係ないよ
仏陀の教えを知りたいだけで」
「そう あとアマ姉はやめなさい
もうお姉さんて年じゃないし」
アマ姉は近所の寺の尼さんだ。
蓮日 天音の天をあまと読むのでアマ姉
年齢は今年で38ぐらいだったか。
空が朱く染まっていた。
俺とアマ姉は車を降りてある寺に向かう、
催事があり、俺たちはその手伝いだ。
「そういえばサトーは異世界ものって知ってる?」
「何か変な世界に行くやつでしょ。」
「そーね。悪役令嬢に転生するのもあるらしいけど。
これこれ。」
アマ姉がスマホで画面を開いて俺に見せてくる。
いかにも気の強そうなツリ目の化粧のどぎつい女がドアップで見下ろすイラストが描かれていた。その横にはエルフの少女と高身長のイケメンが仕えている。
「アマ姉は悪役令嬢には向いてないね。
人が良すぎるし、きれいな美人だし。」
「はいはい。」
アマ姉は今日もきれいだ。
髪を剃って尼になっても美しい女性は変わらない。
俺がスマホの画面を見ずぼーっとアマ姉の横顔を見ていると
「彼女でも作りなさいよ。」
「今はそういうのはいい。」
「年頃なんだし煩悩の1つは持たないと。」
「俺はアマ姉が」
パパパパッ!!!
「きゃーっ!!!」
「逃げろ!!」
乾いた音から数瞬遅れて叫び声が聞こえる。
「え」
黒いヘルメットをかぶった男が銃を乱射していた。
そして銃口がこちらを向く。
「サトー!逃げ」
「っ!!!」
アマ姉が言い終わる前に
俺はとっさにアマ姉を押し飛ばす。
男の銃口の延長線上に俺は立っていた。
パンッと銃声が夕焼けに響き渡った。