第113話 普段は役に立たない男の見せ場
日が暮れると、司法局実働部隊のハンガーの前に広がる草野球の練習用グラウンドは砂埃に包まれた。誠が見上げれば大型輸送機がいつも誠が立っているマウンドに向かいゆっくりと降下してきていた。
「菰田もやるもんだなあ。最新鋭機だろ?そう言うのって操縦するのは勇気が要るんだ。どんな欠陥を抱えてるか分かんねえからな」
出撃前の作業服姿のかなめがそう言いながら誠の肩を叩いた。
「すぐに乗り込むぞ」
かなめの言葉に頷いた誠はそのままハンガーへ足を向けた。
「野次馬は結構だが自分の仕事を忘れるなよ」
ハンガーの入り口で同じように作業服姿のカウラがエメラルドグリーンのポニーテールをなびかせて二人を迎え入れる。
「焦りなさんな。叔父貴がおらんでもやることは変わらねえんだ。神前!とっとと済ませちまおうぜ」
そう言ってかなめは自分の白く塗りなおしたばかりの05式狙撃型へと足を向ける。誠も自分の機体を見上げた。05式乙型は整備員が張り付いて反重力エンジンや対消滅エンジンの調整を行っている。
そんな中、誠はコックピットに上がるエレベータに乗り込む。そのまま上昇してコックピットに張り付いている西の隣に立った。
「ご苦労様」
そう言った誠に西はその童顔をほころばせる。助手一人の整備班員は調整用端末のジャックを取りまとめていた。
「法術系の対応出力はかなり上がってますからね。まあチャージレートなんかはシミュレーションの設定にかなり近づけましたからそれなりの戦果は出してくださいよ」
ひよこの言葉に誠は頷いた。法術兵器による広範囲攻撃。誠の知る限り、いやたぶん知らないところでもこのような兵器の実戦投入は初の試みだろうと思うと誠の鼓動が高鳴る。
「本当にうまく行くのかな?」
誠のこわばった表情を見てひよこの表情が厳しくなった。
「神前さんのそう言うところ直した方がいいですよ。私達は万全を尽くしたんですから。少しは人を信用してくださいよ。それと自分自身も」
そう言って笑うひよこに笑顔を返そうとするが、誠にはそのような余裕は無かった。手元のコンソールが光り始め、機体のチェック項目が次々と終了していく。
「全面戦争を避けるためにも僕が頑張らなくちゃいけないんだ。あの新兵器……使いこなして見せる」
誠は自分自身に言い聞かせるようにそう言って操縦桿を握る手に力を込めた。