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マティアスとリカオン

 レティシアは女性である事を隠さなくなった。当初マティアスは、レティシアがますます兵士に襲われるのではないかと不安だったが、それは杞憂だった。

 レティシアはこれまでの軍生活で皆と同じように生活していたため、他の兵士たちと信頼関係ができていたのだ。

 女性であるレティシアは、すんなり軍に受け入れられた。

 だが一つ問題があるといえば、レティシアとリカオンの噂が立った事だ。

 リカオンはレティシアが男装をしていた頃から目をかけていた。女性だとわかった今、レティシアはリカオンの恋人だといわれているのだ。

 マティアスから見ても、リカオンとレティシアはお似合いの二人だった。マティアスにとってリカオンは兄だ。小さい頃散々いじめられたが、助け守ってくれたのもリカオンだった。

 レティシアはマティアスが初めて心奪われた女性だ。彼女を知れば知るほどレティシアが好きになった。もしリカオンとレティシアが恋に落ちれば、マティアスは異をとなえる事などできなかった。

 マティアスの考えはどんどん暴走しだし、ついに爆発した。

「うぇーん、リカオン。レティシアと幸せになってくれぇ」

 マティアスのテントに報告にやって来たリカオンに、マティアスはわんわん泣きながら祝いの言葉を言った。

「このバカ!戦場では間抜けな顔をするなといつも言ってるだろう!」

 怒りの形相のリカオンに、マティアスは両頬を何度も叩かれた。

「あのなぁ、レティシアは確かにいい娘だ。だが俺が彼女に親切なのは、弟の恋人になってほしいからだ」
「へっ?」
「おい。だからといって、レティシアがマティアスの事を嫌っていたら俺は絶対にマティアスを止めるからな」
「う、うん」
「そうとわかれば、泣くな!鼻水垂らすな!しまった顔をしていろ!」
「うん」

 マティアスはジンジンする頬を押さえながらうなずいた。


 ついにイグニア軍との対戦の時が迫っていた。レティシアは勇敢にも戦場の偵察に行き、イグニア軍を戦いに有利な場所までおびき出す役も買って出てくれた。

 事前にイグニア国に潜入していたヴィヴィアンの情報で、マティアスの風の剣を防ごうとする魔法使いの一団がいる事はわかっていた。

 マティアスは愛馬マックスにまたがり、戦場を駆けた。背後には頼りになる騎馬軍が後に続いている。

 マティアスの目に、イグニア軍の軍勢が目に入った。先手必勝。マティアスは腰の剣には触れず、胸に手を当て、ペンダントを剣に変え、高々と剣を空にかかげた。

 剣に風魔法を発動させる。風魔法はクルクルと螺旋を描き、剣に巻き付いた。マティアスと剣の師匠であるヴィヴィアンが編み出した魔法剣だ。

 マティアスが剣を一振りすると風は暴風となり、イグニア軍の兵士をなぎはらった。

 狙うのは兵士だけ。馬は無傷で手に入れる。馬は軍力に直結し、それに可愛い。マティアスは、主人を失ってポカンとしている馬たちに風魔法をかけ、優しく壁際に移動させた。



 

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