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第10話(4)中ボス討伐

「くっくっく……」

 移動中の馬車内で小太りの勇者がニヤニヤとする。

「……面白くはないですよ」

 クイナが横目で見ながら呟く。

「聞いてもいないのに決めつけるな!」

「先を読んでみました」

「そういうのは良い!」

「それは失礼……」

「けっけっけ……」

「完全に悪い奴の笑い方じゃん……」

 マイが呆れ気味の視線を向ける。

「誰が悪い奴だ!」

「怖い……」

 オッカが隣のアーヴに抱き着く。

「オッカさんが怖がっています……」

「こ、怖がらせるつもりはなかったんだが……」

 小太りの勇者が後頭部をポリポリと搔く。

「邪悪さは隠せないんだね……」

「誰が邪悪だ……!」

「冗談だよ」

 マイが肩をすくめる。

「かっかっか……」

「カラスの物真似?」

 ファインが首を傾げる。

「違う!」

「結構似ていましたよ」

「褒められても嬉しくない……!」

「そうですか」

「ひゃっひゃっひゃっ……」

「もう笑い声のバリエーションが尽きてきているじゃありませんか……」

 ベルガが頭を軽く抑える。

「しょうがないだろう! 笑いが止まらないんだからな!」

「……言っておきますが、今度は努々油断なさらぬよう……」

「分かっているさ。ドンと任せておけ」

 小太りの勇者が自らの胸を叩く。だらしのない腹がたぷんと揺れる。

「あっ!」

 御者をつとめていたシャルが馬車を停める。小太りの勇者が尋ねる。

「なんだなんだ、どうした?」

「い、いえ、あれを……」

 シャルが前方を指差す。そこには少し大きめのゴブリンが数匹いた。

「おおっ! あれだ!」

 小太りの勇者が馬車を転がるように降りる。シャルが慌てる。

「ぼ、坊ちゃま、危のうございますよ!」

「平気だ! まさか、こんなゴブリンどもの討伐が難易度B……上から数えて3番目のクエストとはな……大楽勝過ぎて笑いが止まらん……」

 小太りの勇者が笑みを浮かべながら、鞘から剣を抜く。レプが尋ねる。

「……援護はしなくても?」

「不要だ! 俺もそれなりに修羅場をくぐってきている……これくらいなんてことはない」

「最近は酒場を修羅場と呼ぶのかな~」

 ルパがボソッと呟く。

「行くぞ……それっ!」

「!」

 小太りの勇者が剣を振る。ゴブリン数匹が慌ててかわす。小太りの勇者が笑う。

「はははっ! ちょっと大きいだけで、所詮はゴブリンだな! 大したことは……⁉」

 ゴブリン数匹の背後から巨大なゴブリンが現れる。常人の3倍以上の大きさである。

「……!」

「どわっ⁉」

 巨大なゴブリンが持っていた大きな斧を振る。小太りの勇者には運よく当たらなかったが、風圧で吹き飛ばされる。小太りの勇者はコロコロと転がる。ファインが呟く。

「ギガントゴブリン……並のゴブリンとは大きさも腕力もケタ違いのゴブリンだ……」

「そ、そういう大事なことは早く言えと……!」

「ギルドの説明をきちんと聞かないからですよ……ベルガさんも念を押していたのに……」

「思ったよりは大きいですが……まあ、やりようはあります……それっ!」

「‼」

 ベルガが杖を掲げ、ギガントゴブリンに雷撃を食らわせる。ギガントゴブリンがふらつく。

「オッカさん! お願いします!」

「うん……グオオッ!」

「⁉」

 ドラゴンに変化したオッカが火炎を吐く。それを受け、ギガントゴブリンは丸焦げになる。

「よ、よし、俺の計算通りだ……!」

 馬車に轢かれたカエルのような体勢になりながら、小太りの勇者が頷く。

「お疲れ様です!」

 イオナがホテルに戻って来たパーティーをロビーで迎える。

「いえ、大したことはありません……」

 ベルガが眼鏡をクイっと上げる。

「いやいや、凄いですよ! 難易度CとBのクエストを立て続けにクリアするなんて!」

「皆さんのお陰です……」

「そんなに謙遜することはないですよ……」

 ロビーのソファーに腰かけていたリュートが口を開く。

「本心ですよ」

「まあ、それは良いとして……お茶でも飲みませんか?」

 リュートが自らの向かいの席を指し示す。

「……いただきましょう」

 ベルガが座る。そして、お茶を口にする。やや間を空けて、リュートが話す。

「……良い知らせと悪い知らせともっと悪い知らせがあります」

「珍しい言い回しをしますね」

 ベルガが苦笑する。

「どれから聞きたいですか?」

「……良い知らせから」

「皆さんの名声がうなぎ登りです。“皆さん”のね……」

「それは結構なことです……」

 ベルガが満足そうに頷く。リュートも頷く。

「こちらとしても非常に喜ばしい限りです」

「……悪い知らせとは?」

「……帝王の軍勢が動きを活発化させています」

「ふむ……」

 ベルガが顔をしかめる。リュートが両手を広げる。

「この地方の平穏がさらに乱れますね……」

「……それよりももっと悪い知らせとは?」

 ベルガが問う。リュートがやや躊躇いがちに答える。

「……帝王軍の主力、『四天王』が自ら動き出しています」

「ほう……」

「狙いは勇者さまのパーティー……より正確に言うならば、貴女方ですか……」

「受けて立つしかありませんね……冒険者になった以上はある程度覚悟していたことです」

「なんとも頼もしいお言葉です。それでこれが四天王の情報なのですが……」

「仕事が早いですね……」

 リュートが机の上に紙を数枚並べる。ベルガがそれに視線を落とす。

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