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ダチだから

ズパさんが首をかしげた。表情こそわからないが、明らかに「なんで?」って感じで。
「え、いいのそんな願いで?」
「ああ、別に俺自身それほど願いたいことなんでねえしな。だったらこいつの……ルースの身体を一刻も早く治してもらいたい」
俺は包み隠さずルースの蝕まれた身体のことを話した。
「ラッシュ。僕のことはいいよ、それより君のほうが……」
「いや、だから差し当たって今こいつにお願いしたいことはだいたい叶えてもらえたからな。マジでなんにもねーんだ」
ルースが怪訝そうな顔で俺に聞いてきたもんだからきちんと返してやった。案の定ズパさんはこう言ってきたさ。
「これほど欲がないっていうのも珍しいかもね」って。
うん、確かに今の俺は仲間といいカネのことといい、それほど深刻な悩みっていうのはほぼ皆無だし。だったら……今すぐ叶えられるものがあるとすればそれは一つ。ルースの幸せだ。
だってそうだろう? あの豪傑女との結婚も控えているっていうのに、肝心のこいつが徐々に命を削られているんだ。放っておけるわけない。だって俺の大事なダチだからな。
「ふふっ、キミのことますます気に入ったよ。無欲なのも素敵。けどそれ以上に自分のことより親友の幸せのことを真っ先に願うっていう、その精神がね」
つぶやくズパさんの右手の先が、突然大きく膨れ上がった。

「いつかボクも。キミの親友として認められたらうれしいな。ふふっ」
その右手をルースに向けた直後だった。
「!!!!!」
一体何がどうなったのか全然わからない。いきなりだ。ルースの身体が水に包まれていた。
水……? あれは水だったのか? ズパさんの右手が破裂したかと思いきや、瞬間、宙に浮いたルースが溺れていたんだ。
溺れまいと必死に水中でもがき続けているルース。だが泳ごうとしても一向にその身体は一点に留まったまま動かない。
巨大な水のかたまりの中に、ルースが閉じ込められている……なんなんだこれ!? ルースを溺れ死なす気か?

「ズパ、お前……!」とは言ったものの、当の本人は涼しい顔だ。
「驚かせてごめんねルース君。落ち着いてゆっくりと、その水を空気だと思って吸い込んでみるんだ」
「え……?」

ルースにもその声が聞こえていたのか、やがて落ち着きを取り戻すと、ゆっくり、ふわりとその身を魚のように漂わせていた。つーか魚みたいだ。こぽこぽと鼻と口から空気を吐き続けながら。
「ボクは身体そのものが浄化の水で構成されている。ネネル姫がボクのことを頼れと言ったのはそういう意味もあるのさ」
やがて目をゆっくりと開いた水中のルースが、俺たちに向かってなにか話しかけているように見えた。
おそらく「大丈夫。ここは気持ちいい場所だ」って。

「風の噂で、デュノ家は短命だとは聞いてはいたが……なるほどね」
おそらく……と、ズパさんは何か言おうとしていたが、俺の心配そうな顔を見て突然口ごもっちまった。
「今、彼の体液をボクの水に置き換えているんだ。大丈夫。これで……」

やがてぽちゃんと水が弾け飛び、全く濡れていないルースが俺たちのもとに戻ってきた。

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