第四十四話 次のステージへ
敷地の外。ハヅキが引く馬車に俺とユウキが乗る。
「げ」
先に乗っていたアイお嬢様が嫌そうな顔で俺たちを迎えた。
「げ。とはなんですか。同じ馬車で行くことはわかっていたでしょう」
俺とユウキはアイの向かい側に座る。
当初こそ俺とユウキはアイ&ハヅキコンビとは別の馬車で行く予定だったが、ハヅキが「ユウキ様たちも乗せていきますよ」と提案したことで同乗が決まった。ちなみにノゾミちゃんとドクトは分家の家から出発するため、別行動だ。
「ま、いいけどね。ダンザさんには借りがあるし」
「お! ようやくちゃんと名前で呼んでくれたな」
「そりゃそうでしょ。恩人に対しての礼儀ぐらいは弁えているわよ」
俺に対する態度は軟化したようだが、未だにユウキに対しては目もくれない。
「皆さん、そろそろ馬を走らせてもよろしいですか?」
ハヅキの声。
俺は「大丈夫だ」とハヅキに声を掛ける。
「了解です
馬が走り出す。
「……」
「……」
ユウキとアイ、二人が俺をジッと見てくる。
「ねぇ、気のせい? いま、私の親友がアンタのことダーリンって呼んでた気がしたんだけど?」
「私も同じように聞こえましたが……」
「気のせいだろ。俺はダンザさんって聞こえたぞ」
「ダーリン。次の曲がり角、揺れますので気を付けてくださいね。ダーリン」
俺の華麗な受け流しを嘲笑うようにハヅキはダーリンを連呼する。
「……」
「……」
再び沈黙の責めが俺を襲う。
「考えたくありませんが、まさか他の守護騎士に手を出したなんてことありませんよね?」
「考えたくないけど、まさか人の親友に手を出したわけじゃないわよね?」
これはまずい。アルゼスブブとの戦いを思い出すレベルの修羅場だ……!
「……違う! それはない! 14の
「14の……」
「ガキィ!!?」
おっとしまった。別の踏んじゃいけないところを踏んじゃった!
そう。女の子……特にこれぐらいの歳の子は自分が子ども扱いされることに強い拒否感を覚えているのだ。
「ふふふ……言葉のチョイスを間違えましたね」
前から嬉しそうな声が聞こえてくる。
ハヅキの奴……からかいやがって!!
「確かカムラ聖堂院まで五時間はあります」
「ジックリと、話を聞かせてもらいましょうか?」
「……か、勘弁してくれ」
次のステージに向かう前にとんだ災難だ。
だが――ユウキにしても、アイにしても、ハヅキにしても、俺がラスベルシア家に来た当初に比べて遥かに生き生きしている。それはちょっと嬉しかったりして。
「なにをにやけているのですか?」
ユウキが手を俺の傍に置き、ジトーっと睨んでくる。
「あなたは私の守護騎士なのです。あまり……他の生徒や守護騎士に現を抜かされては困りますよ」
「はははっ! わかってるよ」
「だから、何を笑っているのですか……もう」
街を出て、馬車は草原を駆ける。
次のステージ――カムラ聖堂院に馬車は向かっていく。