第41話 フラムと買い物
申請書を書き終えた俺たちは夕方に『祝ファクトリー結成パーティー』を開くことに決めた。
提案したのはフラムとアランだ。俺たちが錬成している間に話し合ったのだろう。
ファクトリーの申請書を提出するため、ヴィヴィはジョシュア先生を探しに出た。
アランは何やら急用があるとかで一時退席。
俺とフラムの2人でパーティーの食料を買いに街に出た。
“スイーツファクトリー”。
名の通り、ケーキなどのスイーツが売ってるファクトリーだ。
「見てくださいイロハさん! サファイアストロベリーケーキです!」
宝石のような光沢を放つ真っ赤なイチゴが乗ったホールケーキだ。
「こっちには
雪のように白いチョコでコーティングされたホールケーキ、とても綺麗な白色だ。
フラムは紫の髪を振り乱し、あっちこっちのケーキを見て回る。
「どれか一つだぞ。予算はそんなに多くないんだ」
「わ、わかってます。う~、悩みますねぇ……どっちもつよつよです……!」
フラムは目をキラキラと輝かせ、あれがいいこれがいいと悩みに悩んでいる。
気持ちはわかる。ここにあるのはアルケー以外の国じゃまず目にしない物ばかり。錬金術を応用して作ったのだろう、どれもこれも魅力的だ。
「……見ろよあの子、めっちゃ可愛くね」
「ああ、一年生かな?」
男子生徒のつぶやきが耳に入った。
フラムと一緒に居るとこういうつぶやきを聞くことは珍しくない。いま悩んでいる姿も女の子らしくて可愛らしい。――ヴィヴィにこの愛嬌があればな。
「よし! これに決めました!」
フラムは雪花砂糖のチョコレートケーキに決めたようだ。
だけどまだ、名残惜しそうにジトーっとサファイアストロベリーケーキも見ている。
「むぅぐぐぐ……!」
まるで幼児だな。仕方ない。
「すみません。雪花砂糖のチョコケーキとサファイアストロベリーケーキをください」
「え!? いいんですか二つも!」
「片方は俺が自腹で買う。どっちも味見してみたいからな」
フラムは俺の右手を両手で包み、大きく上下させる。
「ありがとうございますイロハさん! この御恩は一生忘れません!」
羨ましそうに俺を見る周囲の男子。
うん、この優越感は悪くないな。金を払った価値がある。
「お買い上げ、ありがとうございました~」
ケーキを2個持って店を出る。
次に食料店“フードファクトリー”に寄って食材を買い集めた。
「これだけあれば足りるだろ」
「そうですね。ではヴィヴィさんの家に向かいましょうか」
フラムと2人、両手いっぱいに紙袋を持って城下町を歩いていく。
夕方の城下町は騒がしく、至るところにある食堂はお祭り騒ぎだ。
空には空挺が飛び交い、道も車輪のない自転車や直立不動で動くローラースケート等摩訶不思議な乗り物が行き交う。
「もう慣れましたけど、ここは夕方が一番賑やかですね」
「仕事終わりの飲み会やら、ファクトリーの活動終わりの打ち上げとかで騒がしいんだろうな」
2人きり。
せっかくだし、俺はずっと聞きづらかったことをフラムに聞いてみる。
「これまで聞けずにいたけどさ、良かったのか? 俺たちと同じファクトリーになっちまって」
「はい!」
フラムは即答する。
「普通にそこらにあるファクトリーに入った方が利点は多いと思うぞ」
「でも、新しくファクトリーを作る方がドキドキしませんか?」
「それは……否定しないけど」
「ジブンはいま、すっごくドキドキで楽しいんです! 凄く強いアランさんや、なんでも描けるイロハさん、そして憧れの錬金術師のヴィヴィさん! 凄い皆さんと一つの目標に向かって努力するのは楽しくて仕方ないですっ!」
どうやら迷いも戸惑いもないようだ。
我ながら余計なことを聞いてしまったらしい。