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第38話 最強の2人

 1日が過ぎて、ファクトリー登録期限前日。
 俺たち4人が訪れたのはモデルファクトリーの研究室だ。
 今日はファクトリーの活動がないらしく、モデルファクトリーにある錬金窯をジョシュア先生が貸してくれたのだ(ちなみにジョシュア先生の姿はない)。
 俺たちはオーロラフルーツの種(レプリカ)の素材をテーブルに並べる。
 オーロラフルーツの種の素材は七つ。

・赤の魔素水
・砂糖
・くるみ
・金色の粘土
・シャインアクア
・夢魔草
・ハートの実

 シャインアクア、夢魔草、ハートの実以外の四つはヴィヴィが用意してくれた。

「すまないが、フラム君とアラン君は一度、部屋を出てもらえるかな?」

 集中するため、場の人数を削ることを提案するヴィヴィ。足手まとい、と遠回しに言っていることを自覚しているのだろう、申し訳なさそうな顔だ。
 フラムとアランはヴィヴィの心中を察し、「後は任せるね」と部屋を出て行った。

「始めようか」
「ああ」
「素材の量的に失敗できるのは一度までだ。私は一度の失敗は仕方のないモノだと考える。それだけ難しい錬成物だ」

 ヴィヴィが言うのだから相当なんだろうな。

「その失敗を如何に糧にできるかが勝負だ。異変を感じたらすぐに言ってくれ」
「了解です先生」
「まず原料となる魔素水だが、色々な製造元の物を全四種類選別した。この中で一番品質の良い物がどれか教えてほしい」

 A~Dの文字が振られた魔素水を、俺は観察する。

「色合いで言えばC。他は微量だが不純物が混じっている……気がする」
「そうか。ではCを使おう」

 ヴィヴィは魔素水を錬金釜に投入する。

「オーロラフルーツの種の錬成は品質が一定以下になると失敗する。品質制限(クオリティリミット)というやつだ。錬成物には品質によって成否が決まる物が多い。覚えておくといい」

 了解です先生。

「夢魔草は色で判別できないな」
「夢魔草で重要なのは毒の保有量だ。それは私の鼻で判別できる」
「この金色の粘土は?」
金糸(きんし)粘土だ。水に浸すと金色の糸になる粘土でね。その糸を土台に衣服を作ると強靭な服ができるんだ。シャインアクアに浸し、ほぐしてから錬金窯に投入する」

 次々と素材を投入していくヴィヴィ。

「フフ……まさか、私が他人と共同錬成する日が来るとはね」
「多人数で錬成するのは初めてか?」
「ああ。自分の才能しか信じていなかったからね」
「お前らしいな」

 言葉の裏を見れば、俺の才能は信じてくれているってわけか。
 素材を投入し終え、ヴィヴィがマナドラフトに手を当て、一度目の錬成をする。4個の種がシャボン玉に運ばれヴィヴィの手に落ちる。

「失敗だ」

 特に感情を込めずヴィヴィは言う。

「なぜわかる?」
「オーロラフルーツの種はオーロラを発生させると聞いている。オーロラが出てないから失敗だ」

 さて。とヴィヴィは種をガラス瓶に入れる。

「反省会だ。なにかおかしな点はあったかな?」
合金液(メタルポーション)の色に異変を感じたのはシャインアクアと金糸粘土を入れた時だな。それまでずっと、鮮やかになっていった合金液(メタルポーション)の色が急にくすんだ。品質が見るからに落ちた気がする」
「ふむ。私の鼻も同時に異臭を感じた。タイミングとしてはそこで間違いないな」
「金糸粘土をシャインアクアでほぐす、というのは正しい工程なんだよな?」
「ああ。コノハ先生から貰った本に確かにそう書いてあった」
「見せてくれるか?」

 俺は本を受け取り、錬成工程の部分を見る。
 色を見る限り改ざんはない。さすがにそこまで意地の悪いことはしないか。

「シャインアクア……確か、太陽光に当てることで金色に輝くんだよな?」
「ジョシュア先生はそう言っていたね」

 ヴィヴィはパチンと指を鳴らす。

「そうか。もしや、シャインアクアは植物のように光合成するのかもしれない。シャインアクアは採取してからずっと太陽光には当てていないから……」
「試してみる価値はあるな。シャインアクアの量は十分にあるし」

 試験管にシャインアクアを入れ、カーテンを開けて窓を開き、太陽光に当てる。
 シャインアクアが金色に輝く。

「見るからに品質が上がっているな」
「ああ。良い香りだ」

 1分ほど当てた後、また影に戻す。それでもシャインアクアは金色に輝いたままだ。

「香水のように甘い香りがするよ」
「言うまでもないが、色もまるで違う。性質そのものが変わった気がするな。あくまで勘だけど」
「その感覚は大切にした方がいい。一度、金色に変質したシャインアクアで粘土をほぐしてみよう」

 必要量のシャインアクアに太陽光を浴びせ、そのシャインアクアで金糸粘土をほぐす。
 金糸粘土をほぐすと、シャインアクアの輝きが更に増した。

「手応えアリ。だけど」
「あと一回分しかないんだもんな。気軽に投入はできない」
「だがやるしかない。覚悟を決めよう。イロハ君、全神経を集中して合金液(メタルポーション)を観察してくれ。私も嗅覚を最大限発揮させる」
「それしかないか」

 互いに全神経を集中させ、素材を投入していく。
 そして最後の素材を投入して、蓋を閉める。最後の合金液(メタルポーション)の色は金色だった。
 俺とヴィヴィは額から垂れる汗を袖で拭う。

「……2人を呼んできてくれるかい? この錬成で、運命が決まる」

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