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第30話 空挺ダーツ③

 大会の日が来た。
 俺とアランはランティス競技場に空挺ダーツの競技服(兜と鎧とゴーグル)を着てやってきた。
 朝の9時。太陽が照り輝く中、鎧は暑い。そしてこの熱気……もっとマイナーな大会だと思っていたのに、300を超える観客席は全て埋まっていた。

 ステージの上に居る生徒の数も100はいる。チームにして50は下らないだろう。

「思ったよりガチな空気だな……」
「祭りは祭りでも、本気の祭りみたいだね」

 2人で人混みを縫って歩いていく。
 しかし、いきなり正面の人だかりが散っていった。ある2人組が現れたからだ。

――ジュラーク兄弟だ。

 奴らはまっすぐ俺たちの前まで歩いてくる。

「よう! お前らこの大会唯一の一年坊コンビだろ?」
「やったね兄さん! こいつらカモにすれば、今回も簡単に優勝できるよ!」

 兄さんと呼ばれたのはガタイがいいが身長は低めの男。こっちがガガで、もう片方のひょろ長い方が弟のギギなのだろう。

「おーい! 他の奴らよーく聞け! こいつらは俺たちの獲物(カモ)だ! 手を出したら狙い撃ちにするぞ!」

 ガガが他のチームを牽制する。
 唯一の一年生コンビを狙うのは戦術として悪くない。事実、経験値が圧倒的に足りてないからな。
 俺はガガに感謝した。とてもありがたい展開だ。これで優勝候補を労せず潰せる。

「そんな、勘弁してくださいよ。俺たち初心者なんですから」

 肩を震わせ、弱々しい声で俺が言うと、ガガはニターッと笑って「嫌だね」と言った。勝利を確信している目だ。
 ジュラーク兄弟は高笑いしながら去っていった。

「まさしくカモだね」

 アランが耳元で言う。

「ああ、カモだ」

 俺とアランは顔を見合わせて笑った。
 係員がそれぞれのペアのダートボードを1つずつ、念入りに確認する。不正を防ぐためだ。確認が終わり、係員が去ったところで俺とアランは小さく息を吐いた。


 ---


 全員が空挺に乗り込む。
 流れ弾を防ぐためか、透明な壁が地面からせり上がって観客席の前に設置された。
 ステージに唯一立つは審判を務める教員だ。

「皆様お集まりいただき、誠にありがとうございます!」

 審判は青白い貝殻を口に寄せ、喋る。その貝殻の効果か、教員の声は競技場全域に反響する。

「これより空挺ダーツを開始いたします! 優勝賞品はこちらです!」

 審判はガラスケースを上に掲げる。
 ガラスケースの中にはピンク色のハートの形をした果物が入っていた。
 アランはその果物を見て、口を開く。

「アレが……」

 俺は頷き、

「ハートの実だ……!」

 俺たちが求める物だ。

「その名もハートの実! ハートの実を全て平らげれば、一週間寝ずに働けるようになる……という噂があります! 労働大好き人間にはたまらない代物です!!」

 審判はハートの実の紹介を終えると、係員の生徒にガラスケースを渡し、笛を手に持った。

「全員準備はいいですね? それでは、空挺ダーツ……スタートだぁ!!!」

 笛の音が響き、全員が一斉に動き出す。

「空挺から落ちたら一発アウトだ。気を付けてねイロハ君!!」
「わかってるよ!」

 高く飛び上がり、ハエのごとく飛び交う空挺たち。中には激突事故を起こして転落するチームもある。転落したチームは一定の高度を下ったところで雲のようなモノでキャッチされた。アレも錬成物だろう。

「見つけたぜヒヨコちゃん!!」

 ガガの声が後ろから聞こえた。

「ちっ!」

 俺は振り切ろうと風神丸を加速させるが、一発、トン……と背中のダーツボードにダーツを突き刺された。

「へいへい! まず20のトリプル頂き!!」

 声からして大分遠いのに、よく当てられるな……!

「イロハ君! 後ろは気にしなくていい。あのマグカップ型の空挺の後ろについてくれ!」
「わかった!」

 俺は言われた通りにマグカップ型の空挺に狙いを定める。相手は他のチームを追っていて、こっちに気づいてない。
 アランがゆっくりと狙いを定めて、ダーツを放った。

――ど真ん中にヒットした!

「ブルいただき!」
「ナイスだアラン!」

「おいおい一年坊! 隙だらけだぜ!」

 また一発、俺の背負ったダーツボードにダーツが当たった。

「19のトリプル頂きだ!」

「気にしないで! 次は箒の形をした空挺だ!」

 アランの言う通りに動く。
 1本の長い箒に、シューターが前、コントローラーが後ろの陣形で乗っている(コントローラーはダーツボードを隠してはならないため、この陣形になったのだろう)。
 しかし相手もこっちに気づいて、逃走する。

「もっと近づいてくれ! 20のトリプルを狙いたい!」
「わかった!」

 風神丸に全力のマナを込め、加速する。
 アランが銃を構え、撃った。

――20のトリプルにヒットした。

 しかし同時に、俺の背負ったダーツボードにも矢が刺さった。

「18のトリプル!」
「さっすが兄さん! これで優勝確実だよ!」
「もうお前らに用はねぇ! ポイントありがとな!」

 ジュラーク兄弟の声が遠くなっていく。どうやら去ってくれたようだ。

「ふーっ、良かったね。ど真ん中は喰らわなくて」
「まぁな。アイツらが欲深くて助かったよ。これであのチームに優勝の目はなくなった……」
「後は僕たちが点を取るだけだ」
「頼むぞアラン。ここからはお前が頼りだ!」
「わかってる!」

 それから20のシングル、18のトリプル、ブル、20のトリプルにダーツを刺すことができた。
 合計で294ポイント獲得した。アラン曰く、かなり高得点だそうだ。あとはどれだけ引かれるかだな……。


 ---


「集計が終わりました! 選手の皆さんはステージ上に集まってください!」

 全52チーム中、12チームが転落して失格。
 残りの40チームがステージ上に並ぶ。

「よう一年コンビ! お前らのおかげで断トツで一位を取れたよ!」

 ジュラーク兄弟はわざわざ俺たちの隣に並んで嘲笑ってくる。
 まだ結果は発表されてないのに、一位を確信しているようだ。

「勝負は最後までわからないぜ」

 俺が言うと、弟のギギが「はぁ?」と眉をひそめた。

「決まってんだよ! 俺と兄さんは20のトリを2つ、19のトリを3つ、18のトリを1つだ。重複しない限り、まず負けはない!」
「そういうことだ。喰らったのも20のシングルが2つと19のダブルが1つだけだからな」

 それが本当なら、お前らの優勝だろうよ。
 本当なら、な。

「それでは結果を発表します! まず、第5位! 132ポイントで――」

 余裕の表情のジュラーク兄弟。
 息を呑む参加者たち。
 審判は声高に、第5位のチームを発表する。

「ガガ&ギギコンビ!!」

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