幼少期のマティアス
マティアスは小さい頃から自分を不幸だと思っていた。何故不幸かというと、大切なものをいつも奪われてしまうからだ。
最初に奪われたのは父だった。マティアスの父は偉大なザイン王国の国王だった。父は弟である叔父に暗殺された。
その日からマティアスと母、幼い弟は死ととなりあわせの日々を送る事になる。
王妃であった母は、王族には珍しく我が子との関わりを大切にする人だった。マティアスは幼い頃、いつも母に抱きついて抱っこをねだった。母は笑顔でマティアスを抱きしめてくれた。
その母が死んだ。毒殺だった。毒を飲まされた母は、口から血を吐きながら、泣きわめくマティアスに言ったのだ。
生きて、弟を守って。
その言葉を最期に、母は亡くなった。マティアスとさらに幼い弟のルイスは二人だけになってしまった。
幼いマティアスの後見人になったのは、父の暗殺を指示した張本人の叔父イエーリだった。
イエーリは第一王子の後見人という立場を利用して、ザイン王国を牛耳ったのだ。
マティアスは幼いルイスと共に震えながら幼少期を過ごした。
マティアスには従姉弟がいた。ベルニ公爵家の子供達だ。姉のヴィヴィアンと弟のリカオンはマティアスと歳も近く、いつも一緒に過ごしていた。
ベルニ公爵はマティアスの父の従兄弟で、幼いマティアスとルイスをいつも気にかけてくれていたのだ。
一番年上のヴィヴィアンは、女ながらに剣術も馬術も得意な女傑だった。
「マティアス、強くなりなさい。強くならなければルイスを守る事はできないわ」
ヴィヴィアンの言葉にしたがい、マティアスは剣術をひたすら練習した。
マティアスが幼いからといって、叔父の脅威から逃れられるわけではなかった。叔父のイエーリは、事あるごとにマティアスを暗殺しようとたくらんでいたのだ。
マティアスは母の血を引いたためか、風のエレメント魔法を使う事ができた。わずかな魔法であったが、これがマティアスが生きるための手段になった。
小さな風のかたまりを作り出して相手に当てると、そのかたまりがマティアスに返ってくると、相手の心が理解できるのだ。
その魔法のおかげでマティアスは、叔父の送り込んだ暗殺者を見抜き、排除する事ができた。
マティアスが成長するにつれ、叔父のマティアスに対する当たりはさらに強くなった。
マティアスは叔父の言葉に従い、多くの国と戦争をし、領土を広げていった。
マティアスが二十歳になった頃、叔父が言ったのだ。そろそろ結婚をして王位を継ぐようにと。