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勝利

 レティシアたちはその後もゲイド軍の兵士と戦い大方のゲイド軍兵士を拘束した。ゲイド軍兵士はグルグル巻きにされ、マティアス王子の前に転がされた。

「勇敢なるザイン王国軍の兵士たちよ!我々の勝利だ!」
「おおー!」

 レティシアは相棒のチップを抱きしめながら感慨にふけっていた。これでレティシアとチップは助かったのだ。これでもう戦争なんて危険な事をしなくていいのだ。そして、マティアス王子と共にいる必要もないのだ。

 そこまで考えて、レティシアの胸がズキリと痛んだ。レティシアはこの胸の痛みの原因を理解していた。

 マティアス王子に対する慕情の念によるものだ。レティシアは男爵令嬢といえども身分の卑しい者だ。マティアス王子は、きっと身分が高く美しく聡明な伴侶と結婚し、ザイン王国の国王となるのだ。
 
 それが一番正しい事なのだ。頭ではわかっているのに心では理解したくなかった。

 レティシアが思い悩んでいる間に、マティアスの演説が終わった。マティアスはクルリと向きを変えると、レティシアに向かって歩いて歩いて来た。

「レティシア。では、頼めるか?」
「へっ?あ、あの。すみません聞いてませんでした」
「?。どうしたのだ?疲れたのか?」

 レティシアはぼんやりしていただけなのに、マティアスは心配そうレティシアの顔をのぞき込んでくる。レティシアの顔が真っ赤になる。

「マティアス、あまり近づくな。レティシアが嫌がってんだろ」
「えっ!?レティシア嫌がってたの?!」

 リカオンがマティアスの肩を掴み、レティシアから引きはがす。レティシアはホッと息をはいた。

「レティシア、すまないな。疲れているとは思うが、マティアスを連れて一足先にゲイド国に飛んでくれるか?俺と兵士たちはゲイド軍の捕虜を連れて後から行くから」
「わ、私が、王子殿下とですか?」

 リカオンの願いに、レティシアがすっとんきょうな声をあげる。

「・・・。レティシア、俺といるのがそんなに嫌なの?」

 マティアスが青ざめた顔でレティシアを見ている。そんなわけない。もうあと少ししかマティアス王子と一緒にいられないのだ。わずかでも一緒にいられるなら嬉しい。

「いえ、光栄でございます」


 レティシアは大きくなったチップの背中に乗り空を飛んでいる。後ろには慕っているマティアス王子がいた。マティアス王子は肩に長い棒を背負っている。棒の先には風呂敷包みで包まれた荷物が。その荷物からは血がしたたっていた。

 チップは尊い霊獣のため、血生臭いものが苦手だ。しきりにレティシアに文句を言う。

『ねぇ、レティシア。臭いよ!バカ王子に、もっと後ろに寄ってって言ってよ!』
「そんな事言ったって。マティアス王子がこれ以上後ろに下がったら落ちちゃうわよ」
『いいじゃん。バカ王子は風飛行魔法が使えるんだから自分で飛んでいけばいいんだよ』
「さっきマティアス王子も言ってたでしよ?長時間は空を飛べないって」
『そんなの僕の知った事じゃないよ!』
「・・・。レティシア。どうやら霊獣どのは俺が乗っているのを良く思っていないようだな」

 レティシアとチップがわちゃわちゃ話しているのを見たマティアスが申し訳なさそうに言った。

「も、申し訳ありません。チップは尊い霊獣のため、生臭い不浄なものが苦手なのです」
「うむ、臭いか。では霊獣どの、こうしてはどうか?臭いを感じないくらい早く飛んでは?」
『ははん。僕にそんな事言っちゃっていいの?振り落とされてもしらないよ?レティシア、僕にしっかりつかまってるんだよ?』

 チップはそう言った途端、ものすごい速さで空を飛んだ。

 


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