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第192話 男子下士官寮特製カレー

「カレーのルーはブロックの奴なのね」 

 湯気を上げ始めた鍋を見ながらパーラはそう言った。

「ああ、この前までは隊長の元部下の西モスレムのエースとか言う人が持ってきてくれた特製ルーが有ったんですが切れちゃいましてね。まあ代用はこれが一番だろうってお勧めのルーを使っているんですよ」 

 誠もその男子寮特製カレーは食べたことが無かったが、その代用品のこのカレーも十分満足できる代物だった。

「ああ、西モスレムは北インド文化圏だもんね……カレーとかこだわりそう」 

 渋々厨房に入ってきたアメリアはそう言うと皮むき気でジャガイモを剥き始める。パーラは鍋を火にかけ油を敷いた。

「にんにく有る?」 

「にんにく入れるの?」 

 パーラの言葉にアメリアは露骨に嫌そうな顔をしていた。

「ああ、そちらの奥の棚にありますよ」 

「サラ、とりあえず二かけくらい剥いてよ」 

 サラは棚からにんにくを取り出すと剥き始める。

「臭くなっちゃうじゃない」 

 ぽつりと呟くアメリアの隣のカウラが冷静にサラのにんにくを剥く手に目をやった。

「当たり前のことを言うな」 

 カウラは再び誠から受け取った慣れない包丁でにんじんを輪切りにする。そして一本を切り終えるとカウラの視線が食堂に注がれる。

「かなめちゃん!手伝ってよ」 

 喫煙所から帰ってきたかなめが手持ち無沙汰にしているのをアメリアが見つけてそう言った。その言葉を聴いて躊躇するかなめだったが、誠と目が合うとあきらめたように厨房に入ってきた。

「何すればいいんだ?」 

「ジャガイモ剥いていくから適当な大きさに切ってよ」 

 アメリアに渡されたジャガイモをかなめはしばらく眺める。

「所詮コイツはお姫様だ。下々のすることなど関係が無いんだろ?」 

 挑発的な言葉を発したカウラに一瞥かました後、むきになったようにかなめはジャガイモとの格闘を始めた。

「あまり無茶はしないでね」 

 そう言うとパーラは油を引いた大鍋ににんにくのかけらを放り込んだ。

「誠君、肉とって」 

 手際よく作業を進めるパーラの声にあわせて細切れ肉を誠は手渡す。

「良いねえ、アタシはこの時の音と匂いが好きなんだよ」 

 自分の仕事であるジャガイモを切り分けることに飽きてかなめはそれを手の上で転がしている。

「かなめちゃん、手が止まってるわよ」 

「うるせえ!」 

 アメリアに注意されたのが気に入らないのかそう言うとかなめはぞんざいにジャガイモを切り始めた。

「西園寺、貴様と言う奴は……」 

「カウラ。それ言ったらおしまいよ」 

 不恰好なジャガイモのかけら。カウラはつい注意する。そしてアメリアが余計なことを言ってかなめににらみつけられた。

「誠っち!ご飯は?」 

 サラがそう言って巨大な炊飯器の釜に入れた白米を持ってくる。

「ああ、それ僕が研ぎますから」 

 そう言うと誠はサラから釜を受け取って流しにそれを置く。 

「ずいぶんと慣れてるわね」 

「まあ週に一回は回ってきますから。どうって事は無いですよ」 

 そう言いながら器用にコメを研ぐ誠を感心したように三人は見ている。

「じゃあここで水を」 

 パーラはサラに汲ませた水を鍋に注ぎ、コンソメの塊を放り込んだ。

「ジャガイモ、準備終わったぞ」 

「じゃあ今度はにんじんとたまねぎを頼む」 

「おい、カウラ。そのくらいテメエでやれ!」 

「切るのはお前の十八番だろ?」 

「わかったわよ!かなめちゃん私がやるから包丁頂戴」 

 仕事の押し付け合いをするカウラとかなめに呆れたように、かなめから包丁を奪ったアメリアがまな板の上でにんじんとたまねぎを刻む。

「意外とうまいんですね」 

 確かにアメリアの包丁さばきは外食派を自称する割にはカウラやかなめよりもはるかに手馴れていた。

「そう?時々ネタに詰まった時にラジオを聞きながら夜食とか作るからね」 

「深夜ラジオも役に立つ技量が得られるんだな」 

「そうよ、かなめちゃん。面白いネタ無いの?」 

「あっても教えねえよ!」 

 そう言いながらかなめはアメリアが切り終えた食材をざるに移した。

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