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ヤバくてヤバくてヤバい奴

ー姫さんもなんか思いつきでボクの名前決めちゃうからめんどくさいんだよなー。ボクにはきちんとした名前があるのに。ー

うん、確かにそうだな。ズァンパトゥってなんか舌噛みそうな名前してるし。つーか本来の名前ってあるのかこいつにも。

ー知りたい? 知りたいよね? むしろこうやって出会えた仲だもん。トモダチの証として教えてあげる!ー

と、一方的に響き渡る声はしゃべりまくったあと、なにか……こう、今度は妙なモゴモゴした声が俺たちの耳へと入ってきた。

ーね、いい名前でしょ。これがボクの本来の名前!ー

「「え?」」
まさか今のわけわからん音が……?

ーあーゴメン。聞こえなかったかな。ンじゃもう一回。ー

やっぱりダメだ。声の大きさとかでなく、コイツの声自体がなんか、変。
「もしかして……」声の主の居るであろう青く澄んだ光る天井を見上げ、ルースが答えた。
「もしかして、僕らの口じゃ発音できないんじゃ?」

ーえええええ!?ー
面食らったズァンパトゥの声が広間全体をビリビリと震わした。

ーうーん、参ったなあ。だから姫さんは語感から察してこんな名前にしたのか? いやそれにしてもこういうのって腑に落ちないしー

だんだんコイツに親近感が湧いてきた。前に会ったダジュレイみたいな口だけ野郎とはまた違った性格みたいだし。

ーえ、なんで生贄のキミがダジュレイのこと知ってるの?ー

驚いた! 俺は口にしてないぞ? コイツ俺の心でも読んでるのか!?

ーえ、俺って言った? ねえねえ、キミ……女性じゃないの?ー
その直後だった。天井から地面からゴゴゴと細かな揺れが!
青い水晶のような、澄んだ小さなカケラが雨のように降り注ぐ。やべえ、まさか俺の正体がバレて怒ったとか!?
それに伴うかのように、四方の壁に垂直に亀裂が入り、同じように天井から人間のような物体が……って、ヒトの形!?

そう、四肢が壁に繋がれた人間が降ってきた。
青白いその身体には、あちこちツンツン尖ったような水晶の髪の毛が。しかし顔にあたる場所にはなにも存在しない。まるで水晶球のようにつるりとした面だけ。
「生贄さん。なあに、キミを食べたり殺したりする気はないさ。ただここの領主がキチンとボクの要求に応えてくれたかどうか、その意思を試してみたかっただけ。さあ……顔をよく見せてくれないか?」
水底から浮かんでくる魚の影のように、ぼんやりとした口と目が見え始めてきた。だがその中は真っ黒だ、瞳の存在すら無く、生命があるかすらも判別できない。
その、繋がれた身体……例えるならば、蜘蛛の巣と脚が一体化したかのような姿といった方が分かりやすいかもしれない。身体だけがだらんとぶら下がって、俺たちのところへゆっくりと首を伸ばしてきた。
そして俺たち獣人のように、匂いを嗅ぐみたいにあちこち頭だけで感じ取って、うん、やはりコイツも異形の仲間ってことか。
「ああ〜、やっぱり女の子じゃないかあ。けどすごくかわいく化けてるね。男にするにはもったいないくらい……って、あれ?」
伸びたズァンパトゥの頭が、突然俺の鼻先に迫った。

「キミ、もしかして……黒き衣?」

バレてるし!!!

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