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第172話 無表情の持つ圧倒的迫力

「神前!良いか」

 かなめにもらったプラモの箱を鑑賞していた誠の部屋の前でカウラの声がした。誠はなぜかそれがいけないことであるかのようにかなめからのプレゼントのプラモを机の下に仕舞った。

「どうぞ!」

「じゃあ、失礼する」

 いつも通り無表情なカウラは珍しそうに誠の部屋を見回した。

「物が多いわりに整頓されているんだな。良いことだ」

 カウラはそう言うと椅子に腰かけている誠の正面のベッドに腰かけた。

「今から行くんですか、飲み会。まだ四時ですよ」

 飲み会を始めるにはまだ早い時間帯なので誠はカウラに向けてそう言った。

「早いに越したことはない。アメリアはパーラの四駆で行くそうだ。なんでもアメリアのコレクションのことで相談をするらしい。まあ、パーラを顎で使おうという魂胆は見え見えだが」

 ここは笑顔の一つも欲しいところだったが、カウラの表情はまるで変わらなかった。

「パーラさんも災難ですね。まあ、春子さんと小夏ちゃんなら飲み会が始まる前に店に入れてくれるでしょうけど……何するんです?他の面子が来るまで」

 誠にはカウラの提案の意味が理解できずに彼女にそう尋ねた。

「とりあえず、小夏の宿題をやってやってくれ。神前は優秀な成績で高校を卒業したんだろ?東都理科大学と言えば私立の理系単科大学の最高峰だ」

 カウラの突然の提案に誠は戸惑った。

「僕は文系教科はまるでダメですよ。国語や東和史の宿題なんてできる訳が無いじゃないですか?」

 実際、誠が国立大学を志望しなかった理由は絶望的な国語と社会常識の欠如にあった。特に古文は絶望的で、赤点を何度も取った実績がある。

「じゃあ、それ以外をやればいい」

 カウラは誠が小夏の宿題を手伝うのが当然だというようにそう言った。

「確かに月島屋にはいつもお世話になってますけど……やりますよ!やらせてください!」

 無表情なままにらみつけてくるカウラに誠はそう答えるしかなかった。

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