第170話 らしくないプレゼント
「ちょっと待ってろ。テメエに見せたいモノがあるから」
そう言うと壁の一隅にかなめが手を触れる。スライドしてくる書庫のようなものの中から、明らかに買ったばかりとわかるようなプラモデルの箱を取り出す。
「誠はこう言うのが好きだろ?やるよ」
誠はかなめの顔を見つめた。かなめはすぐに視線を落とす。それは地球製の戦車のプラモデルだった。
「T14オブイェークト148……ロシアの第5世代戦車ですね……もしかしてこれを渡すために……」
「勘違いすんなよ!アタシはもう少しなんか運ぶものがあったような気がしたから呼んだだけだ!これだってたまたま街を歩いてたら売ってたから……」
そのまま口ごもるかなめ。それは誠のあまり好きではないドイツ軍の回収型戦車のプラモデルだった。しかし、あまりモデルアップされない珍しい一品だった。
「ありがとう……ございます」
「もっと嬉しそうに言え!」
いつもの強引な彼女に戻ったかなめを見て誠は笑みを浮かべた。
「そう言えば……神前」
かなめは照れから覚めて真顔で誠をにらみつけた。
「帰りはどうすんだ?ここに泊まるか?」
「え?」
ここで誠ははたと気づいた。このマンションにはおそらくかなめ以外の住人はいない。二人きりである。
できれば話したいことはたくさんあった。誠はかなめについてもっと多くのことが知りたかった。
そして理解しあえればきっと……と考えるほど誠は純朴な青年だった。
「ああ、そうか……アタシ等が茜に送られるのは隊の全員が知ってるわけだな。それで、オメエがこの部屋に下手に長居したら……」
かなめのその言葉で、誠の意識は夢の世界から現実世界に引き戻された。
『特殊な部隊』の『特殊な連中』がどういう反応をするかは想像するに難くない。
まずアメリアがあること無いことネットにあげて誹謗中傷を始めるだろう。カウラは明らかに冷たい視線を浴びせつつ、嫌味を次々と連発するだろう。
そして最悪なのが寮長の島田である。
彼は自分の『純愛主義』を勝手に人に押し付ける癖があった。すでに何人かの隊員がそのことで隊長の嵯峨に転属届を出して隊を逃げ出したという噂は誠も聞いていた。
誠はド下手なパイロットとして東和宇宙軍に入隊したので他に行き場などない。
つまり、一気にニートへと転落することを意味している。そしてここは東和共和国。愛の無い世界なのである。
「そうですね……タクシー呼びます」
「そうか、じゃあその前にビールを飲むか?」
かなめのよくわからない気遣いで缶ビールを受取りながら誠は自分がかなり特殊な環境にいることを改めて理解することになった。