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第163話 かなめのバイク愛好家の一面

「その靴って、もしかしてバイクでいらしたの、かなめさん」 

 膝下まである皮製のバイク用ブーツを手にしたかなめは玄関に座ってブーツに足を入れた。

「おお、それがどうした?オメエなんか下駄で車の運転か?危ねえぞ」 

 誠も和服に下駄と言う茜のいで立ちは車の運転にはふさわしくないと感じた。

「私は一応、法律の専門家ですのよ。ちゃんと車では運動靴に履き替えます。それよりかなめさん、バイクはどうなさるおつもり?」 

 誠もようやくそのことに気がついた。かなめのバイクは東和製の高級スポーツタイプ。雨ざらしにするにはもったいないような値段の代物だった。

「どうせ明後日はここから出勤するんだ。別に置きっぱでも問題ねえだろ」 

 特に明日の事は気にしていないと言うようにかなめはそう言った。

「そうじゃなくて明日はどうなさるのってことですわ。私は明日は出勤ですわよ」 

 確かにこのことは誠も知りたいところだった。平然と『迎えに来い』などと言いかねないかなめのことである、心配そうに誠はかなめの顔色をうかがった。

「ああ、明日?あれだ、カウラとアタシはトラック借りてそれに荷物積んで来るから問題ねえよ。だから置いていく。それでいいか?」 

 そんなかなめの言葉に誠は胸をなでおろす。かなめはブーツを履き終えるといつも通り誠達を待たずに寮を出て行く。そんなかなめを見ながら下駄を履いた茜がスニーカーの紐を結んでいる誠の耳元でささやく。

「そんなにあからさまに安心したような顔をしていらっしゃると付け入られますわよ。かなめさんに」 

 そのまま道に出るとかなめがバイクを押して隣の寮に付属している駐車場に向かっているところだった。

 いつ来ても、司法局実働部隊男子下士官寮の駐車場は酷い有様だと誠も認めざるを得ない。雑草は島田の指揮の下、草を見つけるたびに動員をかけるので問題は無い。入り口近くの車が、明らかな改造車なのは所管警察の暴走族撲滅活動に助っ人を頼まれることもある部隊に籍を置いている以上、豊川市近辺ではありふれた光景である。

 朱に交われば赤くなると言うところだろう。誠はそう思っていた。

 しかし、一番奥の二区画の屋根がある二輪車駐車場に置かれたおびただしいバイクの部品の山が入った誰もの目を引き付けることになる。島田准尉のバイク狂いは隊でも知らないものはいない。ガソリンエンジンの大型バイクとなると、エネルギーのガソリン依存率が高い遼州星系とは言え、そうはお目にかからない。

 そのバイクのエンジンが二つも雨ざらしにされて置いてある。盗む人間が現れないのは、その周りに島田が仕掛けた銀行並みのセキュリティーシステムのおかげ以外の何者でもない。エタノールエンジンの大型バイクを愛用しているかなめが、それを見て呆れたように肩をすくめた。


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