第144話 『図書館』と呼ばれた部屋
昨日のかなめの妹の配属について知らないことに対する怒りの怒鳴り声が耳から離れない。かなめがなぜ妹であるかえでをそれほどまでに嫌うのか不思議に思いながら、誠はそんな状態でゆっくりと目を開ける。
誠がドアを叩きつける音にようやく気がついて起き上がると、そのままベッドから降りて戸口に向かう。太陽はまだ窓から差し込める高さではない。頭をかきながらドアを開けた。
「遅せえんだよ!さっさと着替えろ!」
そこには島田と菰田がジャージ姿で突っ立っていた。犬猿の仲の二人が並び立つと言う珍しい組み合わせに誠は目を疑った。
「それとこいつ。返しとくぞ」
寝ぼけた目で菰田から渡された三冊の雑誌に目をやる。この前のコミケで買った18禁同人誌だと確認すると自然と意識が冴え渡った。
「どうしてこれを……」
誠はあまりこの手の本には手を出さないうぶな青年だったので、恥ずかしい秘密の本を二人から渡されて顔が真っ赤になった。
「あのなあ、お前があの部屋に置いたんだろ?自分の部屋にあると時々顔を出す西園寺さんに見つかると恥ずかしいからとか言って『図書館』に持ってきたじゃないか」
誠はようやく事態が飲み込めた。
西館の二階の三つの空き間。男子寮に於いては『図書館』と呼ばれる特別な部屋があった。
そこは一言でいえばエロの殿堂である。ポルノ雑誌、アダルトゲームやセクシービデオのレーザーディスクなどが山ほど保存されている。寮では階級によってそこの使用可能時間が決められており、誠も男の生理的欲求に駆られて何度か利用したことはあった。
「あそこに来るんですか?西園寺さん達は?本当にあの部屋で良いんですか?前があんな部屋だったなんてことがバレたら特にかなめさんあたりに僕達
正直、誠は呆れていた。寮の住民も必要な時以外は近づかないようにしている聖域である。そこに女性のしかも士官が住み着くことになるとは想像もつかない。
「だから急いでるんだ。お前は少ないから良いがこいつは……全くむっつりスケベの考えることは分からねえな。貧乳のロリものばっかり集めやがって。給料の何割あれにつぎ込んだんだ?」
島田は含み笑いをしながら菰田を見つめた。
「何を言うか!金額で言ったらお前の方が買ってるレーザーディスクの値段は高い!」
全く自慢にならない二人の会話に誠は完全に呆れ果てていた。
「そりゃあ……オメエは貧乳で人気の無い女優物ばっかり中古のワゴンセールを狙って買い漁ってるからだろ?人気女優のデビュー作を狙ってコレクションしている俺の方が女の趣味が良い訳だ。分かったか?変態」
菰田と島田は他人には聞かせたくないような会話を大声でしていた。しかし、その視線はすぐに冷ややかな目で自分達を見つめていた誠に向いた。
「そうだ、セクシービデオ系はまだしも、エロに使う金ではこの中では神前が一番だったな。美少女アニメって結構値がするんだった。一枚当たりの単価で言えばオメエがこの中で一番だったわ。悪りい悪りい、甘く見てたわ。それじゃあ、アニメオタクの神前君!とっとと着替えて来い!」
そう言うと島田が力任せにドアを閉めた。