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第139話 『未開国』の技術と『幼女の友達』

 その言葉に頷きながらかなめが言葉を引き継ぐ。 

「遼帝国禁軍近衛師団別班……通称『神の部隊』」 

 カウラの言葉をついで出てきたその言葉に誠は驚愕した。

「そんな!遼帝国って焼き畑農業しかできない発展途上国ですよ!そんな法術とか地球の科学でさえ解明できないような高度な技術を持ってる訳ないじゃないですか!それにその『神の部隊』って通称なんとかなりません……あまりに胡散臭いですよ」 

 誠が声を張り上げるのを見て、かなめが宥めるようにその肩を押さえた。

 車内は重苦しい雰囲気に包まれる。

「神前。確かにあそこは発展途上国だが……法術に関しては宇宙で一番の先進国なんだ。法術の存在が無かった時代ならまだしも、今はその存在は公になった。法術の存在が公然の秘密だった時代から禁軍近衛師団が『剣と魔法の世界の特殊部隊』として注目されてたのは事実なんだぜ。しかもその別班の隊長は十年前の遼南内戦であの『人類最強』を自称するちっちゃい姐御を堕としたんだ」

 かなめの言葉に誠は言葉を失った。

 確かにランの所属する遼共和国が遼帝国に敗れたきっかけはランの敗北だとラン自身が言っていた。身体強化法術を使用し常に人間の限界を超えた反射神経と腕力を誇り、無敵のパイロットであるクバルカ・ラン中佐を堕として見せた遼帝国のシュツルム・パンツァーパイロットがそれを上回る法術師であったとしても不思議ではない。誠にもそれくらいの事は想像がついた。

「実はこれは未だに公になっていない話だが、東和共和国も秘密裏に選抜した法術師をその別班の隊長に教育させるために派遣していたんだ。その見返りとしてかなりの機密費を内戦で遼帝国側についたことで優遇されるようになった南都軍閥の頭目、アンリ・ブルゴーニュ政権に供与している。あそこの政権と経済が安定しているのはそんなことも一枚嚙んでる訳だ」 

 そう言うとかなめはタバコを取り出してくわえる。

「西園寺。この車は禁煙だ」 

「わあってるよ!くわえてるだけだっつうの」 

 カウラの言葉に口元をゆがめるかなめ。そのままくわえたタバコを箱に戻す。

「私のところにも結構流れてくるわよ。禁軍近衛師団ってブルゴーニュ政権になってからかなりのメンバーが入れ替わってるわね。でも別班の隊長、ナンバルゲニア・シャムラード中尉だけは異動していない……ランちゃんのペンフレンドらしいわよ。ランちゃんも人が良いわね、自分を堕とした相手と友達になるなんて」

 アメリアはそう言ってランの人の好さに感心して見せた。

「ペンフレンド?今時そんなつながり方があるんですか?まあ、未開国の遼帝国なら電話とかも無さそうですし考えられますけど」

 誠は時代遅れの通信手段で結ばれた友情とやらに興味を惹かれてそう言った。

「たぶんそのうちド下手な字の宛名のハガキがあの部屋宛てに来るから……よく着いたわねって感動するほどの下手な字」

 そう言ってアメリアは笑ってみせる。

「はあ……でもその人エースなんですよね……あのクバルカ中佐を堕としたってことは法術師ですか?」

 誠はナンバルゲニア・シャムラードと言うエースの名にどこか聞き覚えがあった。

「なんと言ってもランの姐御がその生涯で唯一負けた相手だ……当然法術師に決まってる。その時は法術師用に開発された特殊なシュツルム・パンツァーに乗ってたらしい」

 かなめは物わかりの悪い誠を馬鹿にするようにそう言った。

「そうなんですか……世の中上には上がいるもんなんですね。『人類最強』って……それじゃあそのナンバルゲニア中尉が『人類最強』じゃないんですか?」

 誠はランが常に自称している『人類最強』と言う言葉の意味がそれでは崩れてしまう事実に気づいてそう言った。

「クバルカ中佐に言わせると、ナンバルゲニア中尉は『神』なんだそうだ。だから自分は『神』や『悪魔』に負けることはあっても人には負けることは無い。だから自分は『人類最強』なんだそうだ」

 ハンドルを握るカウラはいかにもランなら言いそうなことを言った。 

 誠の隣のアメリアは工場の出口の守衛室を眺めている。信号が変わり再び車列が動き出した。

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