第133話 真相を知る者達の会話
「それにしてもランよう」
相変わらずの緊張感の掛けた口調で嵯峨は視線をランに向けた。
「お前さんがいつ『廃帝』の話を始めるかって思うと冷や汗もんだったぜ。奴の存在を知る者はできるだけ少ない方が良い。特に前線に立つものについてはだ」
嵯峨はそう言うとタバコに火をつけ、椅子の背もたれに身体を投げ出した。
「いいや、アタシもそれほど馬鹿じゃねー。それよりアタシはアメリアの奴がそれを言い出すんじゃねーかとそれが気がかりだった。アイツは部長権限で『廃帝』についてはある程度知ってる。今でもいつアイツが口を滑らすかと思うと……入寮の話、アイツだけ外すって訳にはいかねーか?」
苦笑いを浮かべながらランは口の軽いアメリアの事を考えていた。
「そりゃあ逆効果だよ。アメリアの知ってる情報量が自分達より多いこと位、かなめもカウラも察してるよ。下手に勘繰られると今後に差し支える」
そう言うと嵯峨は先ほど『法術武装隊』について書かれた冊子を手に取った。
「それより隊長。アタシを信用してねーのか?『法術武装隊』の話はアタシも聞かされちゃいねえ。それにそいつ等が『廃帝』の戦力として動き出してるのも間違いねーんだ。なんでアタシに話さなかった」
嵯峨はランには基本的には隠し事はしない決まりでランをこの『特殊な部隊』に引き抜いた。それを今更、それも重要な秘密を隠していたことにランは腹を立てていた。
「お前さん腹芸が出来ないじゃん。表舞台で生きていて『法術武装隊』の件を知っているのはおそらく俺くらいだ。その設立を指示した霊帝亡き後の遼南共和国の独裁者、ガルシア・ゴンザレスは今は墓の下だ。『法術武装隊』の関係者も地下に潜ってその動向は俺にも分からない。俺にも怖い事が有るんだよ、ラン。察してくれよ」
言い訳がましくそう言うと嵯峨はランに頭を下げた。
「確かにアタシが腹芸が出来ねーのは事実だから。今回は特別に許してやる。しかし、アイツ等にアタシも知らなかった『法術武装隊』の話をして良かったのか?ただ不安を煽るだけだったんじゃねーか?」
ランにはこの隊長室を出て行く誠達の様子が少し気にかかっていた。
「確かに不安にはなるだろうな。でも、もう二十年も前の話だ。時効だよ。問題はその連中が今何をしているか。おそらく『廃帝』の下で働いているんだろうが、『廃帝』にそんなに情報操作能力があるとは思えないね。おそらくどこかの勢力が『廃帝』に協力することでその存在を消している。俺はそう見たね」
そう言うと嵯峨は口にくわえていたタバコをもみ消した。
「その勢力は『廃帝』お気に入りの甲武陸軍か?甲武陸軍軍人であるアンタの事だ。知ってるんだろ?」
「いんや、違うな。甲武陸軍にそんな情報操作能力は無いよ。甲武陸軍情報部の一番のエースだった俺が言うんだ。甲武陸軍にはそんな実力は無い」
嵯峨は先の大戦で憲兵として活動する傍ら、諜報員として多くの極秘作戦に参加した経験があった。その時の感触が嵯峨に甲武陸軍の情報操作能力の限界を教えていた。
「それじゃあ誰が『廃帝』を隠してるんだ?地球圏……の訳ねーな。『廃帝』の思想は地球圏からすれば危険思想だ。『廃帝』も一番排除したがってるのが地球圏の勢力だ。お互いに相容れる余地はねー」
『力あるものの為の世界を作る』ことと『地球圏からの解放』が今のところ『廃帝』が目的としていることとしてわかっていることだった。ランには『廃帝』を匿っている勢力が何処なのか見当がつきかねた。