第131話 『伝説の剣』と建国の英雄達
「それよりだ」
嵯峨はそう言うとほこりにまみれた壁に向かって進み、その先にあるロッカーを開けた。紫色の布で覆われた一メートル強の長い物を取り出すと誠に差し出した。
「まあそいつらを追っかけるのは安城さん達に任せて」
嵯峨は取り出した紫色の袋の紐を解いた。抜き出されたのは朱塗りの鞘の刀だった。
「刀ですか」
「そう、刀」
そう言うと嵯峨はその剣を鞘からゆっくりと抜いた。厚みのある刀身が光に照らされて光る。明らかに美術刀や江戸時代の華奢な作りの刀ではなく明らかに人を斬るために作られたとわかる光を浮かべた刀だった。
「お父様。それは『バカブの
茜がその刃を見ながら言った。聞きなれない響きの言葉に誠達は真剣な表情の嵯峨親子の視線を追った。
「『バカブの剣』……遼州独立の英雄バカブが差していたという名の通った業物だ……遼州に地球から鉄器が伝わった初期に鍛えられた名刀……まあこの星には鉄とカラシニコフライフルが同時に伝わったわけだからあまり役には立たなかったみたいだけどね」
そう言うと嵯峨は電灯の光にそれをかざして見せた。
「一応、神前一刀流の跡取りだ。こいつがあれば心強いだろ?丸太ぐらいは斬ってたもんな、中学生くらいの時には」
そう言うと嵯峨は剣を鞘に収めた。そのまま袋に収め、紐を縛ると誠に差し出す。
「しかし、東和軍の規則では儀礼用以外での帯剣は認められていないはずですよ……それにそんな貴重な刀……どこで手に入れたんですか?」
自分が射撃で信用されていないことは知っていたがこんなものを渡されるとは思っていなかった誠はとりあえず言い訳をしてみた。
「ああ、悪りいがお前の軍籍、甲武海軍に移しといたわ。あそこは勤務中は帯剣してもよいという決まりがある。いわゆる『出向』って奴。それとこいつの入手経路は秘密……今のところはだけどね」
嵯峨はあっさりとそう言った。確かに甲武海軍は士官の帯剣は認められている。誠の階級は曹長だが、幹部候補教育を受けていると言うことで強引に押し切ることくらい嵯峨という人物ならやりかねない。
「そんなもんで大丈夫なんか?第一、コイツは法術を発動するとその度に気絶すんぞ。役に立つかよ、そんな剣一本」
かなめは当てにしていないと言うように嵯峨にそう言った。
「無いよりましと言うところか?それにあちらさんの要望は誠の勧誘だ。例え捕まってもそれほど酷いことはしないんじゃねえの?だったら多少弱い相手ならその剣で普通に戦って、強い相手なら逃げる。丸太を切るくらいだもん。神前よ、格闘戦は得意だったよな?」
半信半疑の表情のかなめを見やりながら嵯峨はそう言って再び机の端に積み上げてあったタバコの箱に手をやった。
「でもこれ持って歩き回れって言うんですか?」
誠は受け取った刀をかざして見せる。
「まあ普段着でそれ持って歩き回っていたら間違いなく所轄の警官が署まで来いって言うだろうな」
「隊長、それでは意味が無いじゃないですか!」
突っ込んだのはカウラだった。誠もうなづきながらそれに従う。
「そうなんだよなあ。任務中ならどうにかなるが、任務外では護衛でもつけるしかねえかな……困ったな……どうしようか?」
どこか含みのある笑みを浮かべながら嵯峨は誠達を見回した。その何かを待っているような表情が誠には何かの前触れを示しているように見えた。