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第128話 『特殊な部隊』への帰還

 激痛が額に走り、誠は目を覚ました。バスの車外はすでに闇に包まれていた。

「よう、起きたか」 

 かなめの顔と握りこぶしが誠の顔の前にあった。誠は自分の額をさすってそこにこぶができていることが分かった。だるさが消えていた誠はすぐに叫ぶ。

「なんですか!この扱いは!いきなり殴らないでくださいよ!こっちは病人なんですよ!」 

 額を押さえながら誠は起き上がった。心配そうに見つめているカウラと目が合ってうつむいてしまう。

「起きて大丈夫?なんか体の異常とか感じること無い?」 

 アメリアはそう言うとポットに入れたコーヒーを紙コップに注ぐと誠に差し出した。

「どうにか……かなり楽になりました」 

 実際、誠はかなめに殴られた頭以外特に痛みも気持ち悪さも感じていなかった。

「大丈夫か?一人で歩けるか?」 

 心配そうにカウラがそう語りかける。誠はとりあえず立ち上がってみた。以前のような立ちくらみは無い。力が戻ったと言うように左手を握っては開く。

「顔色もよろしいんでなくって?不用意に法術を使ったとしても意外と回復力はあるようですわね」 

 そう言って茜は四人を見守っている。彼女の声で改めて周りを見回す。すっかり日は暮れていた。茜の前の席にはカラオケを続けて歌い疲れたサラとパーラ、それに顔に読んでいた本を乗せているひよこが寝息を立てていた。

「すいません!荷物降ろすんで、残りの人も全員降りてくれませんか!」 

 運転席の脇に立っていた島田が叫ぶ。前の席の整備班員やブリッジクルーが背中に疲れを見せながら立ち上がっているのが見える。

「とりあえず行きましょ。今日の襲撃の話、隊長とランちゃんに報告しなきゃいけないし」 

 そう言うとアメリアが通路を歩き出した。カウラとかなめが続き、アメリアはとりあえず誠が普通に歩くことが出来るのを確認すると彼の後に続いた。

 昨日出発した隊の駐車場に誠達は降り立った。もう十時を回っているのにハンガーに明かりがともっているのはいつものことだった。そしてこちらもいつものように電気がついていたのは嵯峨のいる部隊長室だった。

「西園寺さん。何が入っているんですか?このバッグ」 

 重そうに島田は荷物を取り出す。頭を掻きながらかなめはそれを受け取った。

「ああ、それにはちょっと物騒な物が入っているからな。アタシ等が襲撃された時、この中身があれば茜なんかの手を借りずに済んだのによう」 

 やはり予想通り銃器でも入っていると言うようににんまりと笑うかなめを困ったように島田は見上げる。

「止してくださいよ、警察の検問とかがあったら止められて説教されますよ。私用で外出中に備品の銃器を持ち出したなんて……まあ、無茶ばっかの俺が言えた義理じゃ無いですが」 

 いつも警察のお世話になっている島田を無視して、かなめは自分のバッグとその後ろの誠のバッグを取り出した。

「それじゃあ叔父貴の面でも拝みに行くか。今日の襲撃者について知ってることを全部吐かせてやる」 

 そう言うとかなめは荷物を持たせた誠をつれて歩き始めた。茜、カウラ、アメリアもその後に続いて本部棟を目指した。

 誰もいないと思っていた管理部の部屋に明かりが灯っていた。中をのぞけばカウラを追いかけて旅行に参加した菰田が恰幅の良いパートリーダーの白石さんになにやら説教をされていた。

「アイツ、おばちゃん達に黙って参加したな。パートのおばちゃん達が今の時間まで残ってるってことは、たぶん第二小隊の設立に関して費用計算のシミュレーションとかの重要な仕事が溜まってるんだろ。白石さんを怒らすとあとでどうなっても知らねえぞ」 

 横目で絞られている菰田を見てにやけた顔をしながらかなめがこぼす。実働部隊控え室には明かりは無い、そのまま真っ直ぐ歩くかなめ。隊長室の扉は半開きで、そこからきついタバコの香りが漂う。

「……例の件ですか?そりゃあ俺んとこ持ってこられても困りますよ。うちは探偵事務所じゃないんですから、公安の方に……って断られたんでしょうね、その調子じゃあ」 

 『駄目人間』嵯峨惟基は電話をしていた。そんな隊長らしい交渉をすることもあるものだといつも喫煙所でさぼっている嵯峨しか知らない誠は感心した。

「おい!叔父貴!」 

 隊長室の前に来るとかなめはノックもせずに怒鳴り込んだ。電話中の嵯峨は口に手を当てて静かにするように促す。カウラ、茜、アメリア、誠はそれぞれ遠慮もせずに部屋に入った。隊長室には先客と言うか、嵯峨を見守る誠達とは別の姿があった。

 クバルカ・ラン中佐である。彼女もちっちゃな腕を組みながら難しい表情で電話口で理屈をこねまわす嵯峨を見つめていた。

「……そんな予算があればうちだって苦労しませんよ。わかります?それじゃあ」 

 嵯峨は受話器を置いた。めんどくさい。嵯峨の顔はそういう内容だったと言うことを露骨に語っているように見えた。

「東和の内務省の誰かってとこだろ?」 

 部屋の隅の折りたたみ机の上に並んでいる拳銃のスライドを手に取りながらかなめが口を出した。

「まあそんなとこか。さっさと帰れよ。疲れてんだろ?」

 そう言って嵯峨は浅く座っていた部隊長の椅子の背もたれに体を投げる。

「もー遅せーんだ。家に帰って寝ろ。その分明日もきっちりしごいてやるから」

ランは外向きの笑顔で誠達にそう言った。

 嵯峨とランのやる気の無い態度にかなめが机を叩いた。困ったように嵯峨は眉を寄せる。鉄粉でむせる誠を親指で指差してかなめが叔父である嵯峨をにらみつけた。

 ランはと言えば多少、この合宿で誠達に何かあったことを悟って口を真一文字に結んでかなめをにらみつけた。


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