第126話 海を去る『特殊な部隊』
「遅いっすよー西園寺さん!」
バスの横の荷物入れの前に立っている島田が叫んだ。そしてその目が誠に向くと明らかに何か含むような笑顔に変わった。
「済まねえ!あと一人は乗れるだろ?こいつ乗せてってくれ」
そう言うとかなめは後ろに続く茜を指差した。
「隊長のお嬢さんですか?まあ乗れますけど……なんでここに?」
島田達は不思議そうな視線を茜に送る。
「ちょっとしたご挨拶ですわ。かなめさん、誠さんが遅れてますけど、よろしいのですか?」
「いいんだよ。あいつなら」
そう言ってかなめはバスに駆け込む。カウラとアメリアがその後に続く。ようやく肩で息をしながら荷物を抱えて走る誠が現れる。
「何だってこんなに重いんだよ」
ようやくバスのところまでやってきて、誠はそのまま路上に腰を下ろした。島田は誠の足元にあるかなめのバッグを拾い、一瞬驚いた後、誠を見つめた。
「これ西園寺さんの荷物か。この格好はサブマシンガンでも入ってるんじゃないのか?」
そう言いながら荷物を客席下の空間に島田が詰めていく。誠はへたり込んだままじっとそんな島田を見上げていた。
荷物を積み終えて扉を閉める島田の前で息を整えようと座りなおしている誠がいた。
「神前。なんか顔色悪いけど大丈夫か?」
心配そうに手を出した島田の助けを借りて誠は立ち上がった。相変わらず脂汗が流れる。かなめ達の修羅場で流れるいつものそれとは明らかに違う。どっと倦怠感が襲う。立ちくらみのようなものまでが視界をゆがんだ。
「とりあえず、バスに乗るぞ」
その様子に少し真剣な顔をしながら、島田は誠を抱えるようにしてバスに乗り込んだ。
「なんだ?どこかおかしいのか?」
島田の肩を借りてようやく立っている様な有様の誠に運転席のカウラが尋ねてくる。
「平気です、何とか……」
島田の手から離れて元気なところを見せようとする誠だが、その足元は誰が見てもおぼつかないものだった。
「かなめちゃんに殴られたの?」
サラが冗談でそう言うが、やりかねないかなめだけに車内の一同が大きく頷いた。
「うるせえ、サラ!何でいつもアタシがぶったことになるんだ?アタシだったらぶっ叩いたりしねえ。射殺するだけだ。それにぶっ叩くのはランの姐御の専売特許だろ」
もうすでにバスに置いたままだったラムの入ったフラスコを口にしているかなめが叫ぶ。
「日ごろの行いだよ、この外道!」
かなめとは犬猿の仲の小夏がそこでかなめを罵る。
「小夏!テメエ表に出ろ!ガキだからって容赦しねえからな」
小夏が席から身を乗り出して後部座席にふんぞり返るかなめをにらみつけていた。