第124話 テロ組織達の活動方針の転換
「実際、同盟司法局はすでにテロ組織は活動を準備していると言う見方をしていますわ。状況はそれほど悠長なことを言ってられないことは先ほどのアロハシャツのお客様をごらんになればわかるのではなくって?」
それまでの茶目っ気のある笑顔が茜の表情から消えていた。
「どこだ?動いてるのは。さっきの野郎は自分を『革命家』だと言った。どこの組織の手の者だ?知ってるなら教えろ」
気の無い調子でかなめがたずねる。誠もまたその問いの答えを期待していた。
「わかりませんわ。でも明らかになっている資料ではっきりわかったことは、ここ最近、すべてのテロ組織が行った破壊活動に法術適正の所有者による法術爆破テロが急激に減少しているということだけ……まるで申し合わせでもしたみたいに」
そう言う茜の表情には先ほどまでの余裕はどこにも見えなかった。
「良い話じゃねえか。発火能力を使っての自爆は見ててやりきれないからな。それでもテロの件数自体は減っていないことぐらいアタシも知ってるよ」
さすがに茜の父親を思い出させる舐めた話しかたに業を煮やしたと言うようにかなめが後ろで呟く茜に向き直った
「そうなんですの。つまりテロ組織の直下で法術適正を持った組織員が自爆テロ以外の行動をとろうとしている、または他の第三勢力の元に彼らは集められて、来るべき活動のために訓練を受けている。今のところ推察できることはこれくらいですわね」
かなめは静かに天を仰ぎ、にんまりと笑った。そして再び茜を無視しているように歩き始める。
「既存のテロ組織には法術適正の人物に対し、訓練を行う設備など持ってるはずもねえ。いや、正確に言えば制御された法術によるテロを行うための訓練をすれば、逆に無能な上層部は力に目覚めた飼い犬に手を噛まれる羽目になるってわけだ。そんな危ない連中を手なずける程の力量のカリスマ。お目にかかりたいもんだねえ」
皮肉のつもりでそう言ったかなめだが、茜はまるで気にしていないと言うように余裕のある笑顔を浮かべている。
「私もですわ。既存のテロ組織は、宗教、言語、民族、人種、イデオロギーを同じくするものの共同体みたいなものですもの。上層部は作戦立案と資金の確保を担当し、下部組織はその命令の下、テロの実行に移る。そこには必ず組織的ヒエラルヒーが存在し……」
かなめは不意に立ち止まり、茜の顔をまじまじと見つめる。
「話が長えよ。要するにどこの誰ともわからねえ連中が、テロ組織の法術適正所有者を身元は問わずに片っ端からヘッドハンティングした。そう言いたいわけだな」
かなめはタバコを取り出そうとしたが、目の前の茜のとがめるような視線を受けて止めた。
「そうですわね。一番それがしっくりいく回答といえますわ。でも、それだけのことを行うとなれば相当な資金と組織力が必要となりますわ。しかも、今日現れた刺客の言ったとおり、力を持つものが支配する世界の実現と言うことになれば、それに賛同するような酔狂な国は宇宙に一つとして存在しないでしょう……少なくとも今のところは法術師の支配する国がこの宇宙のどこにもありませんもの」
誠も気になっていたその一点を茜は指摘した。そのうれしそうにも見える顔つきは確かに彼女が嵯峨家の一員であると言うことを示しているようにも見える。
「逆に、だからこそ支援をする国もあるんじゃないのか?そんなことは不可能だが自分の権益確保のために投資しておく価値はあるということで」
皮肉めいたいつもの笑みを浮かべ、かなめがそう言った。
「同盟の不安定化は地球圏国家の思惑と一致するのは言うまでもないことですわね。でも制御できない力を自分を受け入れることが絶対に無い組織に与えることが、いかに無謀かは想像がつかないほど無能な為政者はいらっしゃらないでしょう。それにベルルカン大陸の動乱をごらんになればわかるとおり、下手につつきまわせば、それこそ泥沼の戦争に陥って抜け出せなくなることも経験でわかっているはずですわ」
茜の腕が豊かな胸のふくらみの上に組まれているところを誠はじっくりと見ていた。
「この馬鹿!胸見んの禁止!」
すかさずかなめがこぶしで誠の頭を殴りつける。頭を押さえる誠を見ながら、茜は心の奥から楽しそうな笑みを浮かべた。
「ふふふ、誠さんとかなめさん。本当に仲がよろしいんですね」
微笑む茜に誠は思わずかなめを見た。一気にかなめの頬が赤らむ。
「お……おうよ。こいつはアタシの部下で『相棒』だからな」
そう言うとかなめは誠の首根っこをつかむとヘッドロックをした。
「苦しいですよ、西園寺さん!」
「いいじゃねえか、ほらアタシの胸が頬に当たってるぞ。あ?うれしいだろ?」
誠は幸せなのか不幸せなのかわからないと言うような笑みを浮かべる。
「本当にお似合いですわよ」
茜は笑顔を振りまく。しかし、その視線がかなめ達の後ろに立つ二つの人影をも見つめているものだと言うことはかなめも誠も知らなかった。