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第123話 思い出の海

 ほんの数時間前にバーベキュー場と『特殊な部隊』の陣取る浜辺へ行き来した道の歩道には人影はほとんど無かった。車道は次々と帰路に着く車が通り抜ける。倦怠感に実を包まれるようにして二人は歩いていた。

「今日はいろいろありましたね」

 そう誠が言えたのはバスの止めてあるホテルに入る小道に足を踏み入れたときだった。 

「まあな、最後にとんでもねえ目にあったけどな」

「そして(わたくし)の手に助けられたわけですわね」 

 駐車場の生垣として植えられた太いイチョウの木の陰から現れたのは茜だった。よく見れば東都警察の勤務服にぶら下げられた西洋風のサーベルが違和感を感じさせる。

「オメエ帰れよ。干渉空間を展開すれば隊まで跳べるだろ?とっとと消えろ」

 そう言ってかなめはそのまま帰りのバスに向かって速足で歩く。 

「命の恩人にそれは無いんじゃなくて?それにかなめさんはいくつか私に聞きたいこともあるって顔してますわよ」 

 そう言って口先だけの笑みを浮かべるところが、父である司法局実働部隊隊長の嵯峨惟基を彷彿とさせた。

「まったく親子そろって食えねえ奴だよ」 

 かなめはそう言うと額に乗せていたサングラスをかけなおす。そんなかなめに茜は笑みで答えてみせる。

「ふふっ、そうかもしれませんわね。まずなぜ私が法術特捜に配属されたか。それを知りたいんじゃなくって?」 

 かなめが聞きたいことのまず初めに来るだろう質問に答えようとする茜だったが、かなめはそれを聞くのを拒絶するように首を横に振った。

「ああ、叔父貴から聞いてた。異動はまだ先になるんじゃなかったのか?」 

 つれない感じでかなめは答える。茜は特に気にする様子でもなく話を続けた。

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