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第121話 夏合宿の思い出

 海風が誠達が一戦交えた小道をさわやかに吹き抜けていく。

「もういい時間ですわ。早く行かないと海の家閉まってしまいますわよ。すぐに着替えないといけないんじゃなくて?」 

 茜にそう言われて、気づいたかなめと誠は走り出さずにはいられなかった。

「そんなに急がなくても大丈夫よ!海の家の人には二人遅れてくる隊員が居るって話しといたから!」 

 叫ぶアメリアの声を背中に受けても誠とかなめは走り続けた。

「あいつの世話にはなりたくねえからな。後で借りを返せと言われるに決まってるんだ。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだね」 

 走るかなめが誠にそう漏らした。

「サイボーグの西園寺さんならもっと早く走れるんじゃないですか?」 

 誠はビーチサンダルと言うこともあって普段の四割くらいの速度で走った。

「良いじゃねえか。さっきもそうだけど今回も一緒に走りたかっただけなんだ。アタシもそういう気分になるときもあるんだ」 

 余裕の表情でかなめは答える。砂浜が始まると、重い義体で砂に足を取られて速度を落とすかなめにあわせて誠も走る。

「オメエこそ早く行ったらどうだ。アメリアの言うことは当てになんねえぞ」 

 そう言うかなめに誠はいつも見せられているいたずらっぽい笑顔を浮かべて答えた。

「僕も一緒に走りたかったんです」 

 二人は店の前に置かれた自分のバッグをひったくると、海の家の更衣室に飛び込んだ。

 誰もいない更衣室。シャワーを浴び、海水パンツを脱いでタオルで体を拭う。

「いつ見ても全裸だな」 

 背後から突然声を掛けられて誠は思わず振り返った。そこにはもう着替えを済ませた島田が禁煙指定場所だと言うのにタバコを吸っていた。

「なに?なんですか!島田先輩!もしかして待っててくれたんですか」 

 全裸の誠を呆れたような表情で島田が見ている。

「お前さんが全裸で暴れたりすると大変だからな。それにこの時間だと人が居ねえからゆっくりタバコが吸える。バスの運転の間は吸えねえからそれに備えてだ」 

 島田が居ることは予想が出来ても言い返せない自分に落ち込みながら誠はパンツを履く。

「クラウゼ少佐の指示じゃないんですか?ああ見えてアメリアさんって気の利くところがありますから」 

 部隊に配属になった当初、社会やこの遼州系の隠された事実について最初に教えてくれたのはアメリアだった。アメリアにはそういうおせっかいなところがあった。

「違うよ。俺は俺の為にタバコを吸ってるの。それにしてもお前のモノはでかいなあ……それで童貞なんてもったいねえよ」

 誠のむき出しの局部を見てにんまりと笑いながら島田は入り口の柱に寄りかかっている。誠はすばやくズボンを履いてシャツにそでを通した。

「はい!急いで!行くぞ!」 

 十分タバコを吸い終えて、吸殻をマックスコーヒーの空き缶に押し込んだ島田が出て行くのを見て、誠は慌てて海の家の更衣室で海水パンツとタオルをバッグに押し込み飛び出した。

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