第120話 遅すぎる援軍
「でも、茜さんの剣裁き、見事でしたよ」
ようやく平静を取り戻して誠は立ち上がった。剣道場の息子である誠は茜の剣裁きの見事さくらい読み取ることができた。茜は誠の言葉に笑みを残すとそのまま歩き始める。
「待てよ!」
かなめはそう言って茜を追いかける。誠もその後に続いて早足で歩く茜に追いついた。
そこにもう着替えを済ませたのかカウラとアメリアが走ってくる。
「何してたのよ!」
「発砲音があったろ。心配したぞ」
肩で息をしながら二人は誠達の前に立ちはだかった。そして二人は先頭を歩く東都警察の制服を着た茜に驚いた表情を浮かべていた。
「なあに。奇特なテロリストとお話してたんだよ。なんでも遼州圏を遼州人のパラダイスにする奇特な偉いお方のありがたいお言葉を伝えに来たんだと。ご苦労なこった」
かなめが吐いたその言葉にカウラとアメリアは理解できないというように顔を見合わせた。
「そして私がそれを追い払っただけですわ。本当は一緒に司法局の本部までご案内して取調室で接待して差し上げてもよろしかったのに、ご辞退されました。謙虚な方ですのね」
茜は得意げに話す。初対面では無いものの、東都警察の制服を着た彼女に違和感を感じているような二人の面差しが誠にも見えた。
「何で茜さんがここにいるの?」
アメリアは怪訝そうな顔をして誠の方を見る。
「そうね、お二人の危機を知って宇宙の果てからやってきたと言うことにでもしましょうか?」
さすがに嵯峨の娘である。とぼけてみせる話題の振り方がそのまんまだと誠は感心した。
「まじめに答えてくださいよ。しかもその制服は東和警察の……まあ法術特捜も予算に苦労してるのね」
人のペースを崩すことには慣れていても、自分が崩されることには慣れていない。そんな感じでアメリアが茜の顔を見た。
「余剰の制服の有効活用。役所が考えるにしては結構なことではありませんこと?それに私としては法術特捜の主席捜査官と言うお仕事が見つかったんですもの。同盟機構の後ろ盾つきの安定したお仕事ですわ。フリーの弁護士のお仕事は収入にムラがあるのがどうしても気になるものですから」
そう言うと茜は四人を置いて浜辺に向かう道を進む。どこまでもそれが嵯峨の娘らしいと感じられて思わずにやけそうになる誠を誤解したかなめが叩いた。