第119話 『駄目人間』の娘
「話は大体呑み込めたんですけど……茜さん、なんでここに?」
誠にしてみれば茜の登場はあまりにタイミングができすぎていた。
「お父様からかなめさん達が海に遊びに行っていると聞いて、近くまで来てましたのよ。そこで遠くから観察してたら銃声と法術の発動反応を感じて駆け付けましたの」
茜は涼しい顔でそう言った。
「茜、アタシを信用してねえだろ。銃で法術師は倒せないって知っているな?なあ、言ってみろ。怒らねえから」
静かに怒りを堪えるかなめを見て茜はにこやかに笑う。かなめは茜の反応を見てどっと疲れたようにつぶやく。
誠はここで茜が筆頭捜査官と言う上級職であることを思い出して遅すぎた敬礼をする。
「誠さんそんなに堅苦しくしなくていいわよ。お世話になるのは私達の方なんですから。それにしても誠さんかなめお姉さまの彼氏の割にちゃんとしているんですのね」
涼しい顔をして茜はとんでもないことを言い出した。
「神前がアタシの彼氏?誰の彼氏だ誰の!こいつはアタシの奴隷。召使だ」
かなめは再び誠を使用人扱いする。
「あら?お父様からそう聞いているんですけど……お父様の勘違いだったのかしら?」
嘘しかつかない『駄目人間』からの情報をうのみにしている茜の言葉に誠は大きなため息をついた。
「人間関係を破壊することがあのおっさんの趣味だからな。あのおっさんいつかシメる」
かなめは力強く右手を握り締めた。誠はただ二人の会話を聞いて苦笑いを浮かべていた。
「それにしてもかなめ様の水着姿って初めて見ましたわ。たぶんクラウゼ少佐は写真を撮られているでしょうからかえでさんに送ってあげましょうかしら?」
ポツリと茜がつぶやく。銃をホルスターにしまっていたかなめが鬼の形相で茜をにらみつける。
「おい、茜!そんなことしたらどうなるかわかってるだろ?」
こめかみをひく付かせてかなめが答える。日は大きく傾き始めていた。夕日がこの海岸を彩る時間もそう先ではないだろう。