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第118話 『守護騎士』登場

「つまり交渉決裂と言うわけですか」 

 男は誠達のかたくなな態度にようやく諦めがついたというようにアロハシャツの下から小型のリボルバーを取り出した。

『そうみたいですわね』 

 そのタイミングで、突然三人の頭の中に言葉が響く。

 男は周りを見回している。男にもこの声の主の登場は予想したものでは無かったようで、男の表情は突然の闖入者に慌てているように誠には見えた。

「この声……(あかね)か?」 

 かなめがつぶやくその視線の前に金色の干渉空間が拡がる。

 そこから現れたのは金色の髪。それは肩にかからない程度に切りそろえられなびいている。まとっているのは軍服か警察の制服か、凛々しい顔立ちの女性が金色の干渉空間から現れようとしていた。

 アロハの男は突然表情を変えて走り始めた。

 それまで圧倒的に優位に立ってそんなそぶりも見せなかった男が恐怖にかられるようにして逃げている。誠達が男の状況を把握したとき、かなめに茜と呼ばれた女性はそのまま腰に下げていたサーベルを抜いた。そのまま彼女は大地をすべるように滑空して男に迫る。

 男が銀色の干渉空間を形成し、茜の剣を凌いだ。

「違法法術使用の現行犯で逮捕させていただきますわ!」 

 そう叫んだ茜が再び剣を振り上げたとき、男の後ろに干渉空間が展開され、その中に引き込まれるようにして男は消えた。

 茜は周りを見回し、男の気配が完全に消えたことを察すると唇を噛んで悔しがるような表情を見せた。

「逃げましたわね。今回は彼を捕らえるチャンスかと思ってましたのに」

 その場に立ち止まった茜は剣を収める。誠は突然の出来事と極度の緊張でその場にへたり込んだ。

「茜さん?もしかして、隊長の娘さんの……」 

 近づいてくる東都警察の制服を着た女性を誠は見上げた。

「お久しぶりですわね、誠君……ってちっちゃいころ一回くらいしか会ったこと無いから覚えていないかしら?それとかなめお姉さま」 

 ことが終わって茜は誠達に向き直り笑顔でそう言った。

「その呼び方止め!気持ちわりいから呼び捨てにしろ!かえでの奴を思い出す……ああ、寒気がしてくる」 

 頭をかきながらかなめがそう言った。誠は一人っ子なのでかなめが妹のかえでに持っているアレルギーに近い感情を理解することができなかった。

「それよりその制服は?『法術特捜』の夏服ですか?うちとベースはうちとおんなじで、肩のモールの色がうちが銀色でそちらが金色なだけじゃないですか……しかも長袖……熱くありません?」 

 誠の言葉に茜は自分の着ている制服を見回す。青を基調とした東都警察の制服に茜の後ろにまとめた長い髪がなびいていた。

「ああ、これですね。かなめさんもお父様から話を聞いてますわよね。(わたくし)一応、司法局法術特捜の筆頭捜査官を拝命させていただきましたの」 

 誠とかなめはその言葉に思わず顔を見合わせた。

「マジで?『法術特捜』って同じ司法局の管轄なの?」 

 明らかにあきれているようにかなめがつぶやく。

「嘘をついても得になりませんわ。まあお父様が推薦したとか聞きましたけど」 

 淡々と答える茜に、かなめは天を見上げた。

「最悪だぜ……叔父貴の奴」

 かなめの叫びがむなしく傾いた日差しが照らす岬の公園に響いた。


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