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第115話 『特殊な部隊』では珍しい気の利く人材

「じゃあ、西君は平民としては成功してるんですね」

 技術を身に着けて大学を超える知識と同時に給料までもらっている。西がいつも明るく誠に接してくれるのはそのせいかもしれないと誠は思った。

「ああ、それ以上にアイツはこの『特殊な部隊』では司法局の人事部にも覚えのめでたいうちではレアな存在だ。気が利くし、覚えも早い。何をやらせても整備班で一番うまくやる。人事評価を付けるちっちゃい姐御も整備班では西に一番の評価を付けてるって言ってたぞ」

 人使いの荒い島田の無茶に淡々と応えてみせる西の姿を見ているだけに、誠はかなめの言うことに同意した。そして、そんな西を副部隊長のランがしっかり見ていることに安心感を感じた。

「まあ、あれだけ気が利くんだったらむしろ金持ちの平民やってる店で丁稚奉公とかから始めた方が成功するかもしれねえがな」

 かなめは話題を変えて別の平民の成功例として『丁稚奉公』を挙げたことに誠は少し違和感を感じた。

「丁稚奉公……さっきも平民が小学校を出て街に出るとそうなるって言いましたけど、なんで西君がそうした方が良かったって言うんですか?」

 誠は島田に丁稚扱いされたことがあるが、東和には無い丁稚という職業についてはあまり知識が無かっが、商店の下働きが出世への道だなどと誠には思いつかなかった。

「丁稚奉公ってのは住み込みで大きな商店とかを経営している金持ちのところで下働きをするんだ。本当に店の掃除から始まって家事全般を任された後、それがうまくできるようになったら店に出て客の相手をさせられる。そこで数字に強かったりすると帳簿を任されたりする。東和共和国で言うと経理の偉い人になれるわけだ」

「経理の偉い人って言うと菰田先輩を思い出すんですが……」

 誠に自分の話の腰を折られて鋭い視線をかなめが浴びせてくる。誠は仕方なく黙り込んで話の続きを聞くことにした。

「金を握っていてしかもそれが人並外れて気が利く人間だと分かれば、更に良いことが待っている。それこそ店の主人に気に入られれば、夜間の中学や高校に進める。金は全部主人持ちだ。しかも、店でもいい給料を貰えるんだから一挙両得だな」

「ビジネスの基礎を実地で学べるんですね……確かにそれもいいかも」

 誠はかなめの指す丁稚がどうやら甲武ではサラリーマンの意味らしいと理解した。

「アイツのことだ。面は結構良いからな。うまくすればその店の跡取り娘なんかの婿として迎えらることもあるかも知れねえ。そうすればもうその店は西の自由になる。平民としては大成功の部類に入るようになる訳だ」

 かなめは甲武にも一部の金持ちの平民と言うものが居ることは言っていたので、そうなれば貴族に馬鹿にされない大富豪になれるらしいと誠は思った。

「婿入りですか……甲武は家制度がしっかりしてますからね。でも、それだったら西君も丁稚奉公に行けばよかったのに」

 丁稚として下働きから初めて立身出世していく姿の方が、この『特殊な部隊』でヤンキー島田に顎で使われる境遇より西には似合っているように誠には思えた。

「それじゃあうちが困るだろ?アイツがいてくれねえと技術部は回らねえよ。アイツは部隊では最年少だが技術部では島田に意見できる唯一の存在だ。いつも顎で使われてそれをすべてうまくこなしてるから島田も西の言うことには逆らえねえんだ。アイツがいなかったらアタシ等のシュツルム・パンツァーはまともに動かなくなるぞ」

 かなめの指摘通り、自分勝手な面々で構成されている技術部がとりあえず一つにまとまっているのは島田の暴力による支配と西の気遣いによるものだと肌で感じていた」

「やっぱり西君って凄いんですね。まだ十九でしょ?」

 まだ誠が大学に入ったばかりで世の中の事をまるで知らなかった年にすでに世の中の重要な地位を占めるようになっている。確かに西には誠は感心させられることばかりだった。

「そうだな。アタシは二十八だが十九の時は陸軍士官学校で馬鹿やってた。まったく見習わなきゃならねえな」

 そう言うとかなめは右に大きくカーブする岩場へと続く道を指さした。

「あの先が漁港だ。今の時間は閑散としてるがそれも味があって良いんだ」

 かなめは話題を戻して自分が誠に見せたいという漁港があるという場所を指さした。

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