バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

オンラインプロポーズ

「私を幸せにしてくれるって言ったじゃない。この嘘つき」
「は、何言ってるんだ、いきなり、人の部屋押しかけてきて」
アパートの玄関先で、俺は、うっかり部屋のドアを開けて対応した自分のうかつさを呪った。ドアの覗き穴越しに見たときには、普通に奇麗な女性に見えたのだ。保険のおばさんか宗教の勧誘か何かと思って、とりあえず、ちょっとだけ話を聞いて、お引き取り願おうと思ったら、いきなりうそつきだとか、騙したとか騒ぎ出したのだ。
「とにかく、あんた誰?」
「しらばっくれるつもり? ちゃんと幸せにしてくれるっていうプロポーズの時の動画も残ってるんだからね」
「プロポーズ? 悪いけど、俺、プロポーズ自体、やったことないんだけど」
「証拠の動画なら、ここにあるんだから」
女はカバンからタブレット端末を出して、その動画を俺に見せた。確かに、隠し撮りしたらしいカップルのプロポーズ画像が写っていた。
「二人の記念にあんたが隠し撮りして、世界中の人に祝福してもらおうってネットに上げたじゃない。あんたが忘れたと言っても、世界中の人たちがネットを通して、見てるんだからね」
いかにも決定的な証拠だと女は胸を張ってそれを俺に見せたが、
「おいおい、この男、俺じゃないだろ。こいつ茶髪じゃねぇか」
俺は凡人で、髪を染めた経験もなかった。
「それに、ここに映ってる女もあんたじゃねぇだろっ!」
狂っている人物は、自分が正常で、周りの方が間違っていると思うらしい。
その女は、俺が警察を呼んで連れて行ってもらうときも、嘘つき、騙したと叫び続けていた。

しおり