第111話 陰謀渦巻く中での平和
公安の動きがあくまで家宅捜索に同行しての証拠の共有による情報収集だけだったことがわかると、かなめ達はそのまま他の隊員達が待つパラソルの下まで歩いて行った。
「ひと月も前の事件を今頃家宅捜索とは東和共和国は平和だねえ」
先ほどまでの同じ司法局特務考案公安部隊の動きを察知して会議のようなものをしていたカウラ達は、もうすでに食事の準備の仕上げのために立ち去っていた。
かなめは半身を起こしタバコをくわえながら、海水浴客の群がる海辺を眺めていた。その向こう側では島田達がようやく遊び疲れたのか波打ち際に座って談笑している。
「何度も言いますけどこう言うのんびりした時間もたまにはいいですね」
誠もその様子を見ながら砂浜に腰掛けて呆然と海を眺めていた。
「オメエにとってはランニングを強制してきたり、社会知識の無さのために説教してくるちっちゃい姉御が居ない。その環境がそう言わせるんだろ」
かなめは冷やかすように誠に向けてそう言った。
「別にそんな……クバルカ中佐が厳しすぎると思ってるのは事実ですけど。でも数々の戦場を経験してきた中佐の事です。すべては僕のためを思っての事だと思っています」
いつも誠に高圧的に接してくる機動部隊緒にして『特殊な部隊』の副隊長、クバルカ・ラン中佐のかわいらしい顔が誠の脳裏に浮かんだ。
「お人好しだな、神前は」
まるで感情がこもっていない。こういう時のかなめの典型的な抑揚の無い言葉。誠はいつものようにわざとむきになったように語気を荒げる。
「そうですか……そう見えますか」
誠のその言葉を聴くと、かなめは微笑みながら誠の方を見てサングラスを下ろした。
「人が良いのは良いことだ、アタシはオメエを信頼している」
「は?」
その反応はいつもとはまるで違った。誠は正直状況がつかめずにいた。前回の出動の時の言葉は要するに釣り橋効果だ、そんなことは分かっていた。かなめの励ましが力になったのは事実だし、それが励まし以上の意味を持たないことも分かっていた。
「まあいいか、こうして平和な空を見上げてるとなんかどうでもよくなって来るねえ」
その言葉に、誠は前回の出動を思い出して苦笑した。
「おい!神前!」
さすがに同じメンバーでの遊びにも飽きたのか波打ち際から引き上げてきた島田が、置いてあったバッグからスポーツ飲料のボトルを取り出した。
「ああ、すいませんね気が利かなくて」
起き上がろうとした誠ににやけた笑みを浮かべながらそのまま座っていろと島田が手で合図する。
「こちらこそ、二人の大切な時間を邪魔するようで悪いねえ」
誠とかなめを島田は見比べる。かなめは相手にするのもわずらわしいと言うようにサングラスをかけなおして空を見上げている。
「ずるいなあ。正人をこき使って二人でまったりしちゃって」
そう言ってサラが誠をにらみつける。
「じゃあお前等、荷物番するか?」
そう言うとかなめは立ち上がった。
「ああ、サラ。そこのアホと一緒にちゃんと荷物を見張ってろよ。ただ何かなくなったら後でぼこぼこにするからな」
かなめはちゃんと捨て台詞を忘れない。誠もかなめに付いて歩く。
『正人が余計なこと言うから!』
『島田君のせいじゃないわよ。余分なこと言ったのはサラじゃないの!』
サラとパーラの声が背中で響く。
「良いんですか?西園寺さん」
「良いんじゃねえの?島田の奴はそれはそれで楽しそうだし」
そう言うとかなめはサングラスを額に載せて歩き出した。