第109話 理想を持つ『父』の存在
「でも、オヤジはそんな平民も豊かにしたいんだ。確かに貧しいから人口が増えるばかりで、それを減らすために口減らしをさせている現状は異常だからな。地方のコロニーでは男の子が生まれると家を継ぐ長男以外はすぐに土に埋めて殺され、女が生まれると娼館に売られるために育てられる……そんな国どう考えても異常だろ?」
かなめは彼女なりに尊敬している彼の父であり甲武国宰相の西園寺義基の理想を語り始めた。
「確かにその現状は異常です」
「でも、貴族と一部の平民が独占している富と権利をすべての平民に分け与えれば人口爆発は止まる。地球の21世紀に起きた現象がそれを証明している。だから、まずオヤジは平民に選挙権を与えた。飲まず食わずの平民に自分達と同じ環境で育った代表を選べる制度を作ったんだ」
父親について語る時のかなめはどこか優しげな表情をしているように誠には思えた。
「そして次は経済だ。貴族と金持ちの平民に高額の税金をかけてその富を生活に困っている平民に分配する。『所得再分配』なんて社会用語では言うんだが……テメエには分からんか」
誠は『特殊な部隊』でランなどの教育もあって少しは改善してきてはいるものの、まだ社会知識ゼロの理系脳の持ち主だった。
「はい分かりません。昔からそう言う難しい言葉を出されると混乱しちゃって……」
誠はかなめに難しい用語を出されるとそう答えるしかなかった。
「だが、そうすれば今は電気もガスも無い環境で暮らしている平民達にも政府による支援の手が行きわたる。持っている金が増えて家族をすべて自分で養えるようになれば口減らしも止まる。そうなれば一時的には人口が増えるかもしれないが、社会が平等になれば産まれる子供の数が減って人口爆発もおさまる。それがオヤジの理想の世界だ」
誠には父西園寺義基のことを語るときのかなめは輝いて見えた。
「でも、そこまでには時間がかかりそうですね……西園寺さんのお父さんが宰相を務めている間にそんな社会が実現するんでしょうか?」
父親の遠大な理想を語るかなめの姿に誠は感動を覚えていた。
「無理だろうな。オヤジは叔父貴やランの姐御みたいに『不老不死』じゃねえからな。それに宰相が長いこと同じ地位にとどまれば権力は腐敗する。いずれ同じ理想を持つ後継者にバトンを渡して良くなっていく甲武を見ながらお袋に見守られて死にたい。オヤジはそう言うんだ」
自分の引退後や死後のことまで考えて政治を行っているかなめの父親西園寺義基の偉大さに誠は息をのんだ。
「立派な人ですね、かなめさんのお父さんは」
誠も私立高校の剣道教師で単身赴任までして自分を育ててくれた父親を尊敬していた。しかし、かなめの話す父親像は誠はスケールが違った。
「まあ政治家としてはな。父親としては最悪だ。アタシがグレても何も言わねえ、それどころかアタシの妹のかえでの問題行動を黙認してるなんて……『個人主義』って言っても程度ってもんがあるだろうが!」
自分が不良化している自覚が有るらしいかなめを見て誠は苦笑いを浮かべた。