第106話 勇気を振り絞って吐かれた言葉
「あのー……」
誠はそう言いながらそのままかなめの手を取っている自分を見た。驚いた表情をかなめは浮かべた。そして誠自身もそのことに驚いていた。
「少し散歩でもしましょうよ」
自分でも十分恥ずかしい台詞だと思いながら誠は立ち上がろうとするかなめに声をかけていた。
「散歩?散歩ねえ……まあ、オメエが言うなら仕方ねえな。付き合ってやるよ」
そう言うとかなめはしばらく誠を見つめた。彼女はタバコをもみ消して携帯灰皿を荷物の隣に置いた。そしてその時ようやく誠の言い出したことに意味がわかったとでも言うようにうなだれてしまう。
「カウラさん!すいません。ちょっと歩いてきます」
そう言うと誠はかなめの手を握った。
「え?」
かなめはそう言うと引っ張る誠について歩き出す。少し不思議そうな、それでいて不愉快ではないと言うことをあらわすようにかなめは微妙な笑みを浮かべた。
「散歩ねえ……アタシにはたるいだけだけど」
不服げにそう言うかなめに誠はため息をついた。
「やっぱり散歩なんて嫌いですか?」
自分の提案がかなめにとっては余計なことだったのかもしれないという思いが誠を少しがっかりさせた。
「そりゃあ相手によるな。オメエなら……悪くねえかも知れねえ」
かなめはそう言って皮肉を込めた笑みを浮かべた。その笑顔を見て誠は最高の笑顔をかなめに向けるようにした。
堤防の階段を上ってそのまま海沿いの舗装の禿げかけた狭い道を二人は進んだ。誠はそよ風に吹かれる度にかなめに目をやるが、かなめは特に気にする様子もなくサングラスの下のまなざしは正面を見つめているだけだった。
ただゆっくりとした時間が流れた。
「今頃、クバルカ中佐達何してるんですかね……」
あまりにゆっくりと流れる時間が自然と誠にそんなことを口走らせていた。
「なんだよ、オメエから誘っておいて他人の話か?空気の読めねえ野郎だな」
突然話を変えられて不服そうにかなめはそう言った。
「いや、仕事のことが気になって。それに僕達がいないと隊長が何するか分からないじゃないですか。あの『駄目人間』。誰か監視してないと何を企むか分かったもんじゃありませんよ」
『駄目人間』嵯峨惟基に騙されるようにしてこの『特殊な部隊』に入ることになった誠にはいまだに嵯峨に対する猜疑心が消えることが無かった。
「まあな。叔父貴は何をしでかすか分からねえ。まあアタシも人のことを言えた義理じゃねえがな」
かなめはそう言うとタバコを口にくわえた。
「でも二人っきりになるって久しぶりですね」
そう言うと誠は雲一つない晴れ上がった空を見上げた。空には
「そうだな。いつもアメリアの馬鹿かカウラが茶々入れてくる。人が良いのかなんだか知らねえけどよ」
どこまでも、地球圏までも続いている空が誠達の上空に広がっていた。