第95話 少年兵と言う存在を警戒するかなめ
「他に言うことねえのかよ?話は変わるが気をつけろよ」
急に緊張した面持ちでかなめはそう言って誠に向けて向き直った。
「何がですか?」
少しうつむき加減にかなめがサングラスをはずす。真剣なときの彼女らしい鉛のような瞳がそこにあった。
「今日のアンとか言う少年兵だ。ベルルカンの少年兵上りとなると結構扱いが微妙だぞ」
誠は残ったビールを一気に流し込むようにして飲むと、缶をゴミ箱に捨てた。
「でも……おとなしそうないい子じゃないですか」
大人しそうで真面目な少年。アンに対する誠のイメージはそんな感じのものだった。
「見た目はそうだな。でも民兵に軍の規律は通用しねえ……自分が生き残るためには何をするかわからねえ連中だ……『仲間』だと思ってると痛い目見るぞ。東都戦争じゃそれで痛い目見たことがあるからな……『少年兵上がりは危ない』ってのが戦場の常識だ」
それだけ言うと、かなめは再びサングラスをかけた。
「まあそれぐらいにして……今日は仕事の話は止めようや。とっとと付いて来いよ!」
そう言うとかなめは急に駆け出した。
「西園寺さん!待ってくださいよ」
かなめと一緒に駆け出した島田の姿を見て誠は必死になってその後ろを駆けていった。
「西園寺さん早いんですね……って三人だけですか」
荷物をバンに積んでいたため先に着いていたひよこはピンク色のワンピースの水着姿に着替えを済ませていた。
「迎えに来たんだ……ちょうどいいや。アタシも着替えるわ」
身勝手なかなめはそれだけ言うと海の家に向けて歩き出した。
「西園寺さん置いて行かないでくださいよ!僕も着替えます」
誠は持っていた自分の荷物を抱えたまま、ひよこに預けていた自分の荷物を持って海の家に走るかなめを見て、手にしていた島田の分の荷物も左手に持ったままかなめの後に続いた。