第94話 待ち受ける人々の暴走
「それにしても留守番の連中はどこ取ったんだ?目立つだろ、うちのパラソル。ってどこも派手なパラソルばっかだな……これは探すのは骨かな」
海岸線沿いの道路。一同は歩きながら浜辺のパラソルの群れを眺めていた。赤と白の縞模様のパラソルを五つ備品として保存されていたものを倉庫から引っ張り出してきていた。
「どれも同じ様なのばっかりじゃん。分からないっすよ」
島田が一番にあきらめて歩き始める。誠もどうせ分からないだろうとそれに続く。
「月島屋の女将は……結構几帳面ですから、いい場所取ってるんじゃないですか?」
いつも通っている月島屋で注文一つ間違えない女将の手際を思い出しながら誠は砂浜を見渡した。
「あれじゃねえか?……バッカじゃねえの?」
かなめが指差した先には、『必勝遼州同盟司法局』というのぼりが踊っていた。野球チームの用具部屋の奥にあったそれである。
「アホだ……」
思わず誠はつぶやいていた。
「誰も止めなかったのかよ、あれ」
そう言うとかなめは足を速めた。さすがにいつもより心の広いかなめでも恥ずかしくなったようだった。
「島田先輩、何とかしてくださいよ」
さすがに誠も留守番組の暴走にはあきれているようだった。とりあえず目的地がわかったことだけを考えるようにして海に沿って続く道を進む。
「やっぱ菰田がピッチングマシンを返しに行ったワゴン車にここまで乗せてもらえばよかったかな?」
暑さに閉口したかなめが思わずそう口にしていた。
「ずるいですよ、西園寺さん。でもこれだけ暑いと……アイスでも食べたくなりますよね」
そんな誠の言葉にかなめの視線が厳しくなる。
「それはお前が買え。アタシはあそこまで行ったら誰かが隠れて買ってきた缶ビールを奪い取ってその場で飲む」
かなめらしい発言に誠は思わず苦笑いを浮かべた。
「しかし暑いですよねえ……」
浜辺の照り返しのまぶしさと熱気が誠の口からそんな言葉を吐かせた。