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第90話 サイボーグの馬力

「それじゃあ始めんぞ!」

 マネージャーの菰田が抱える軟球の入ったかごからその一つを取り出したかなめがバットを構えてノックの体制に入った。

「じゃあ、アメリア!行くぞ!」

 そう叫ぶとかなめは鋭いスイングでバットを振りぬいた。ノックの打球は誠がこれまで見たことが無いスピードでアメリアの脇を通過していく。

「この打球を捕れって言うの?無茶言うわね。かなめちゃん張り切りすぎよ。こんなの捕れる訳ないでしょ?ちゃんと手加減してよ。それともその義体の性能の自慢?それこそ迷惑な話だわ」

 アメリアは守備位置を一歩も動かず次のノックを始めようとするかなめに向って叫んだ。

「文句言うな!四番サードをご所望なんだろ?それこそスーパープレーの一つも見せてくれや。それじゃあ、もういっちょ行くぞ!」

 かなめはそう言うと今度は少し加減をしてわざとサードベース上フェアーゾーンぎりぎりに打球を飛ばす。アメリアはそれをジャンプ一発でつかむと、不安定な態勢のまま視線も向けずにファーストに向けて送球した。その送球はものすごい勢いでぼんやりと立っていたファーストのミットの真ん中にまっすぐ吸い込まれる。

「凄い……完全にアウトのタイミングだ。あれじゃあ四番サードにアメリアさんがこだわるのも分かりますよ。スーパープレーですよ今の!」

 その名人級の守備に誠は感心したようにレギュラーでは無いので一人ノックをファールグラウンドで見守っているパーラに声をかけた。

「アメリアはああいったファインプレーは多いのよ。ヒット性の当たりをジャンプ一発で捕って、振り向きもせずにストライクの送球をするスーパープレーは敵も警戒してるわ。でも真正面のゴロをわざとトンネルしたり、明らかに自分の守備位置に飛んだ打球に全く反応しなかったり……下手をするとかなめちゃんより我がままかもしれないわね。明らかにサードの守備範囲に転がってきたゴロを処理させられるショートを守るカウラも大変だわね」

 パーラは呆れたようにアメリアのむらっけのある守備について誠に説明した。

「じゃあ、次!ショート!」

 五球ほどなんでも無いゴロをアメリアに向けて打った後、かなめはそう叫んで視線をショートを守るカウラに向けた。

「カウラさん……ピッチャーをやるくらいだから肩は良いんですよね」

 誠はかなめが打った高くバウンドする打球をカウラが捕るところを見ながらそう言った。

 器用にバウンドに合わせてグラブの真ん中で打球を受けると、カウラは矢のような送球をファーストにした。誠の予想通りその送球は男子選手顔負けの動きだった。

「誠ちゃんの言うことは正解。というか内野の中で一番守備が上手いのはカウラちゃんね。守備位置もわざと動かないアメリアの守るサードの位置からあてにならないセカンドのサラの位置まで配球に合わせて守備位置を変えて守るんだもの……まさに名手ね」

 まるで自分が褒められているかのように得意げにパーラはそう言って笑った。

「じゃあ、次は外野行くぞ!」

 かなめはそう叫ぶとわざとフライを打ちあげようと空を仰ぎ見た。

「えー!ショートの次はセカンドじゃないの?私のノックは?」

 無視されたサラが文句を垂れるが誰もがサラの守備の向上を期待していないので、誰もサラの言葉に同調することは無かった。

 サラの言葉を無視して、かなめは再び信じられないスイングスピードでバットを振った。打球はこれも信じられない角度でセンター上空に舞い上がる。

「あんな打球見たことが無いですよ。普通の試合じゃあそこまでのフライなんて無いですよ。あそこまで上がればスタンドインします」

 なかなか落ちてこない打球を見ながら誠は苦笑いを浮かべた。島田はほとんど動かずに落ち出来た打球を受け止める。

「西園寺さん……ふざけないでくださいよ!これじゃあ手が痛いだけじゃないですか!」

 そう言うと島田は大きく振りかぶり、まさにレーザービームと言うような送球をかなめに向けて投げ込んできた。かなめはそれをほとんど動かずに素手で受け止める。

「凄いですね。島田さんの返球。自慢するだけのことはある」

 誠は島田の肩に感心しながらまたすることもなく立ち尽くすパーラに声をかけた。

「まあね、うちは島田君とアメリアとカウラで何とかしてきたようなチームだから。島田君がピッチャーじゃなくってセンターに固定できればいい試合ができるかも」

 かなめのふざけた外野フライに半分呆れながらパーラはそうつぶやいた。

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