第89話 チームの一番の『穴』
投球練習を続ける誠の前でレギュラーの野球部員達はそれぞれの守備位置についた。
「サラさんがセカンドなんですね……器用なんですか?サラさん」
自慢のスライダーを何度も大野にパスボールされるのに飽きて、誠は隣に立つかなめに声をかけた。
「サラさんは下手だ。あの人も一応ラスト・バタリオンだから遺伝子レベルで体力は強化されて製造されているはずなんだが……」
大野はため息交じりにそう言った。かなめは頭を抱えながら下手とは見えないボール回しをするサラを見守っていた。
「あの子は特別製よ。体力は普通の女の子並み。ラスト・バタリオンの製造は『ベルルカン帝国』の敗戦が濃厚になってから急ピッチで行われたから当然目指した性能を発揮できない個体も存在したわけ。それがサラ」
こちらは補欠らしいパーラがそう言ってため息をついた。
「じゃあなんでレギュラーなんです?パーラさんとか隊の体力強化のトレーニングで僕についてこれるくらい体力有るじゃないですか。セカンドはパーラさんが守れば良いのに」
誠は不思議に思ってかなめに尋ねるが、かなめは誠を無視してバットを片手にバッターボックスへと向かった。
「サラがレギュラーじゃなきゃ島田君が納得しないのよ。自分の良い格好を同じグラウンドで見てほしいんですって。だから、うちの守備ではサラが穴。相手もそれを知ってるからわざとサラの前にプッシュバントなんかして揺さぶりをかけるんだけど、ピッチャーの島田君はフィールディングもぴか一だからほとんど捕っちゃうわけ。それでも捕れなかったのは大体サラがよたよた走って行ってファーストに投げるんだけど、サラの肩じゃあ足の速いバッターならまずセーフね」
そう言ってサラは外野でボール回しをしている島田を恨めしそうに見つめた。島田の非常識は今に始まったことではない。それに島田無しではこのチームは回らないだろうことくらい誠にも分かった。
「島田先輩は自分の思う通りにいかないと怒りますからね。大人になり切れていないんですよ。まだ高校生のヤンキー並みの感覚で生きてるんじゃないですか?まったく迷惑な話だ」
誠はそう言いながらカウラとアメリアからの送球を時々落とすサラの姿にため息をついた。