第80話 カウラの再発する『ギャンブル依存症』
アメリアのノロノロとした走りでも次第に高い照明施設の大きさは近づくにつれて大きく見えるようになる。誠は近づくたびに球場の他の施設も充実しているに違いないと期待に胸を膨らませた。
「良いじゃないか。別に部隊の予算じゃないんだ。地方自治体の税金の無駄遣いは今に始まったことじゃない。おかげでこうして合宿ができるんだ……それよりアメリア。午後の自由時間の話なんだが……」
走りに走って球場のネットが見えてきたところでカウラはアメリアに話しかけてきた。
「何?確かに午後は海で遊ぶ予定だけど。こんな真夏の午後に練習なんて死人が出るってかなめちゃんに行って午後は海で泳ぐって線で納得してもらったんだけど」
道が開けていて、先に着いたらしい菰田運転のピッチングマシンを載せたバンの姿を確認しながらアメリアはそう答えた。
「私は海で泳ぐんじゃなくって他のことがしたいんだ」
カウラは誠からすれば意外なことを口にしたがアメリアはその言葉に大きくため息をつくばかりだった。
「駄目よ、パチンコは。ランちゃんに止められてるんだから。『田舎には必ずデカいパチンコ屋があるもんだ。ベルガーを近づけさせるなよ。また病気が再発する』って。それにいつもカウラちゃんが言ってるじゃない。『パチンコは学生街に限る』って。田舎の街道沿いの大きな駐車場のあるパチンコ屋は渋ちんで回収台ばかりって話よ。そんなに負けたいの?」
すでに到着していたかなめとピッチングマシンの載っているぼろぼろのワゴン車のところまでたどり着いたアメリアはあきれ果てた調子でカウラにそう言った。
「確かに学生街の台は当たり確率が甘い。狙い目だな。でも、田舎の台は田舎の台で一発大きい当たりが出ることがある。駐車場が大きいのはそれを狙ってくるカモを一網打尽にするためだ。その点私の技術なら当たり台を見分けることができる。今日は絶対勝てる。絶対だ」
アメリアの説得にカウラはそう反論した。他の野球部員達は用具とピッチングマシンの設置の為に手を振るかなめの方に向かって歩き始めた。
「そう言う問題じゃないの。カウラちゃんの『ギャンブル依存症』は病気なの。パチンコは週に一回って決めてるんでしょ?今日はその日じゃ無いじゃない」
格上のランからカウラの事を注意するように厳しく言われてきたらしいこの旅行の幹事でもあるアメリアはそう言ってカウラの願いをはねつけた。
「そうなんだが……頼む!五千円だけでも打たせてくれ!今日は勝てる予感がするんだ!頼む!」
誠はカウラがいつもの無表情で理性的なイメージを崩してまでパチンコにこだわる姿に、彼女が確かに『ギャンブル依存症』の患者であることを理解した。
「駄目!『偉大なる中佐殿』の命令よ。カウラちゃんもラスト・バタリオンなら命令に従いなさい!」
ぴしゃりとアメリアはカウラの提案をはねつける。
「頼む、三千円……二千円で良い。一円パチンコだっていい!」
依存症であるカウラはどこまでもアメリアに食い下がった。
「駄目ったら駄目!もう……パチンコの話は以上で終了。誠ちゃん。ユニフォームに着替えるわよ。カウラちゃんもパチンコのことは忘れなさい」
縋りつくようなカウラの視線を無視してアメリアは非情にそう言い放った。誠はそれがもっともだと思いながらこれも立派すぎる男子更衣室に向けて歩き始めた。