第74話 ホテルのオーナーの主君への気遣い
観葉植物越しにレストランらしい部屋が目に入ってきた。かなめはボーイに軽く手を上げてそのまま誠を引き連れて、日本庭園が広がる窓際のテーブルに向かった。
「あー!かなめちゃん、誠君と一緒に来てるー!」
甲高い叫び声が響く。その先にはデザートのメロンの皿を手に持ったサラがいた。
「騒ぐな!バーカ!誰と来ようがアタシの勝手だろ」
かなめがやり返す。隣のテーブルで味噌汁をすすっていたカウラとアメリアは、二人が一緒に入ってきたのが信じられないと言った調子で口を中途半端に広げながら見つめてきた。
「そこの二人!アタシがこいつを連れてるとなんか不都合でもあるのか?文句があるなら言ってみろ。ここはアタシのホームだ。テメエ等には勝ち目はねえがな」
かなめがそう叫ぶと、二人はゆっくりと首を横に振った。誠は窓際の席を占領したかなめの正面に座らざるを得なくなった。
「なるほどねえ、アサリの味噌汁とアジの干物。まるっきり親父の趣味じゃねえか」
メニュー表を手にとってかなめがつぶやく。誠もメニューを見たが、そこに並んでいる品目は誠も見慣れた庶民的な朝定食のそれだった。
「旨いわよここのアジ。さすが西園寺大公家のご用達のホテルよね新鮮なアジを使ってるわ。かなめちゃんの趣味で普通のホテルみたいなバイキングは無いけどこういう和風の朝食にした訳ね。嫌いじゃないわよ、こういうの」
そう言ってアメリアは味噌汁の中のアサリの身を探す。カウラは黙って味付け海苔でご飯を包んで口に運んでいる。
二人をチラッと眺めた後、誠は外の景色を見た。
日本庭園の向こう側に広がるのは東和海が広がっていた。その数千キロ先には地球圏や遼州各国の利権が入り乱れ内戦が続いているべルルカン大陸がある。
誠はそれを思い出すと昨日の少年兵の事を思い出した。