第65話 かなめの『高貴すぎる』教養
「だって……かなめちゃんは活字が読めないもの」
アメリアが言い出したのは誠の想像の斜め上を行く発言だった。
「え?活字が読めない?それじゃあ学校でどうやって教科書読んでたんですか?」
誠はあまりに意外な言葉に呆然とした。そしてそのまま視線をかなめに向ける。
「活字なんてのは明治時代に学のねえ連中が考え出した下賤な文字なの!そんなの殿上貴族は読んじゃいけねえの!ちゃんと『
かなめはそう叫ぶとたれ目で誠をにらみつけた。
「筆文字の……ああ、蕎麦屋の看板に書いてあるあれですか。確かに僕には読めませんね。でも……活字が読めないと困りません?」
おどおどと誠はかなめにそう尋ねる。
「そんなもん、アタシ専属の国文学者の書家が書き起こすから問題ねえ!それにアタシは頭が電脳化してるからすべて音声データで理解できんの!活字を読む必要なんてねえの!」
もはやここまで行くと暴論である。東和共和国の活字文化の中で育ってきた誠にとってはもはやかなめは理解不能な生き物だった。
「でも……困りません?町で看板を見たときとか。僕も蕎麦屋をどうしてあんな字で書くのか分からなくて困ってるし」
かなめは今東和にいる。それなら活字と嫌でも接することになる。誠はそう思ってそう言ってみた。
「そんなもん、アタシの脳はネットに直結してんだよ。自動的に音声変換されて頭に響くわな……要は読むのが面倒なんだなんで筆文字を覚えてるのに二重で活字を覚えなきゃなんねえんだ?無駄だろ?そんなの」
自分の価値観を人に押し付ける。それがかなめの悪い癖だと誠は思っていた。
「本当に勝手ね。まあかなめちゃんらしい理屈と言えばそれまでだけど」
かなめと言うサイボーグの奇妙な電脳の構造に呆れながら誠は呆然としていた。サラダを口に運ぶ誠達に向けてボーイが今日のメインディッシュを持ってきた。
「それでは、クロダイのソテーになります」
ボーイが運んで来た皿を眺めながら誠はなんでこんなに少なく盛るのか理解に苦しみながらその魚の切り身を眺めていた。