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第47話 絶景と和風を思わせるホテル

「じゃあ決まりだな」

 そう言うと島田はベッドの上に荷物を置いた。

「それにしても凄い景色ですねえ」 

 島田と菰田の子供の喧嘩に半分呆れて誠はそのままベランダに出た。やや赤みを帯び始めた夕陽が水平線のかなたに見える。高台から望む海の波は穏やかに線を作って広がっていた。

「まあ西園寺様々だねえ。この部屋、このホテルでは普通ランクの部屋らしいけどこの景色……俺はこんなホテル他に知らねえよ」 

 島田のその言葉を聞きながら誠は水平線を眺めていた。

 海は好きな方だと誠は思っているが、それにしても部屋の窓から見る景色はすばらしい景色だった。松の並木が潮風にそよぐ。頬に当たる風は夏の熱気を少しばかりやわらげてくれていた。

「なんか珍しいものでもあるのか?」 

 荷物の整理をしながら島田がからかうような調子で呼びかける。

「別にそんなわけじゃないですが、いい景色だなあって」 

「何なら写真でも撮るか?」 

 振り返ると島田がカメラを差し出していた。

 その時、突然島田の携帯端末が着信を知らせる。

「まあいいや、神前。とりあえず俺、ちょっと出かけてくるから」 

 ベッドからバッグを下ろした島田はそれだけ言うとそそくさと部屋を出て行った。

 『島田准尉はサラさんと『青春ごっこ』だろうな』

 誠は先ほどの通信がサラからのもので二人で浜辺でも歩こうという誘いのものだと想像して彼女持ちの島田がうらやましくなった。

「俺も出てくる。このホテルには温泉の大浴場が有るんだ。この部屋にも高級ホテルらしく風呂は付いてるが西園寺さんの趣味でこのホテルは『庶民』向けに設計されたんだそうだ。全くこんな部屋に泊まれる庶民の顔が見てみたいな。それじゃあ行ってくる」

 今度は菰田までもが手に何やら荷物を持って部屋を出ていった。

「菰田先輩は早速温泉か……僕は……一人……することが無いな」

 一人置いてけぼりを食らった誠だが、沈んでいく夕陽を見ているだけでとりあえず心は落ち着いて幸せな気分になっていた。

「西園寺さんは自分専用の部屋か……どんな部屋なんだろう?想像もつかないや」

 庶民である以前に旅行の経験もその『もんじゃ焼き製造マシン』体質からまるでない誠にはかなめの専用の個室とやらがどのような広さの物かを想像することができなかった。

 それでもあえて言えることは、誠達の部屋がこの広さと言うことはそれは想像を絶する広さなのだろうと、誠はその広さだけを思い描いてただひたすら関心していた。

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