第30話 誠の『下僕』扱いに関して言いたいこと
「それにしても……かなめちゃん」
串焼き盛り合わせを受け取りながらアメリアは説教口調でそう言った。
「なんだよ」
明らかに不機嫌そうにかなめはそう答えた。
「誠ちゃんを『下僕』扱いは……ちょっとね。貴族が嫌いだと常に言っていることと矛盾しているわよ」
アメリアはさすがにかなめに自分の良いように使われている誠に同情するようにそう言った。
「なんだよ。こいつは東和共和国の『庶民』だろ?!親しみを込めて『下僕』と呼んでるんだから、まだマシじゃねえか……ちゃんと人間扱いしてんぞ。甲武の貴族や士族の連中が金の無い平民を扱うよりよっぽど丁寧に扱ってる。いっそのことこちらが感謝してもらいてえくらいだ」
ラム酒を飲みながらかなめはめんどくさそうにつぶやいた。
「さすがに『下僕』扱いは問題だぞ……貴族が嫌いだとか言ってる割りには矛盾している。少しは貴様の父親を見習え。父親が貴族を捨てたおかげで貴様はそのラムが飲めているんだ。その事実を忘れるんじゃない」
烏龍茶を飲みながらカウラがつぶやく。
「そうよ!前の『近藤事件』で、誠ちゃんは大活躍したじゃないの!ちょっとは人間扱いしてあげても良いんじゃないの?ここは身分制度の無い東和共和国よ。貴族制国家の甲武国とは事情が違うわ」
アメリアはそう言ってネギまを口にくわえる。
「人間扱いに慣れて自分を一丁前だと勘違いして増長されたらたまんねえのはアタシとカウラだぞ。オメエには関係ねえだろ?それにアタシがヤクザの出入りが激しかった『東和戦争』の時に上の命令で潜入していて、その時SM嬢をしていたんだが、『下僕』扱いして喜ぶオヤジが結構な数居たぞ。神前も『下僕』扱いされてうれしいよな!なあ!神前!」
「うれしくないです!」
かなめは明らかに不服そうにそう言ってレバーを口にくわえた。誠もマゾでは無かったので『下僕』扱いは嫌だった。
「それはSMクラブにやってくるドMな人たちだからでしょ?誠ちゃんは東和市民でもう立派な『法術師』なの!うちでは貴重な戦力なのよ。マゾヒストのド変態と一緒にしないで上げてよ。ちゃんとした扱いしてあげないと……嫌われるわよ」
誠の事を少しは買っていてくれるアメリアはそう言ってかなめの扱いの異常性を指摘した。
「何言ってんだ!上司なんて嫌われてなんぼだ!それにだ……アタシが勤めてたSMクラブではアタシは一番人気の『女王様』だったんだ……今から調教してやってもいいぞ。ノンケでも立派なマゾヒストに調教してやる。きっと新たな自分が目覚めるんじゃねえか?」
挑発的なアメリアの言葉にかなめはムキになって言い返す。
「誠ちゃんを変な世界に誘うのはやめてちょうだい。ちゃんと『相棒』くらいの扱いにしてあげないとこういった場で飲む時に誠ちゃんが遠慮するようになるでしょ?私はそれが嫌なの」
四人の会話を焼鳥の盛り合わせを配りながら聞いていた春子はそう言って誠の肩を持った。
「私は相棒として接しているつもりだぞ……私や貴様とは違う『力』があるんだ。敬意位持っても罰は当たるまい。それに神前に変な趣味をつけるんじゃない。後々面倒なことになる」
アメリアの提案にカウラは静かにそう答えた。
「『相棒』?なんでこんな『落ちこぼれ』が?拳銃一つまともに撃てねえ役立たずなんだぞ。ドMの豚で十分だろ?なあ豚!」
いつの間にか誠の地位は『下僕』からさらに転落して『豚』に落ちていた。かなめはさらに怒りながらそう反論する。
「私は戦場を作る。そして、西園寺が撃ち神前が斬ってその結末をつける。私は西園寺と神前を同等に見ている。階級の違いこそあれ隊員はみな平等だ」
そう言ってカウラはトリ皮串を口にくわえた。
「戦場での任務が平等……笑わせてくれるねえ。アタシはスナイパーだ。一番狙撃手だ。間合いに入らねえと役に立たねえ格闘オンリーの誰かさんとは違うんだよ。ああ、カウラ。オメエの機体はECMしか取り柄のない妨害専門の機体だもんな。誰かに守ってもらわないといけない訳だ。一人で戦えるアタシとは事情が違う」
話題を逸らすようにかなめはそう言った。
「でも、誠ちゃんは跳べるわよ。距離とか関係ないんじゃない?それこそスナイパーは射程に入らないと無意味じゃないの。戦力としては誠ちゃんの方が上よ」
アメリアはビールで喉を潤した後そう言って糸目で誠を見つめた。
「跳べるねえ……確かにそうだけどよう……」
串焼きを口にくわえてかなめはそう言った。
「じゃあ、次の出動で誠ちゃんはかなめちゃんがスナイパーとして活躍できる状況を作ればいいじゃない!敵のど真ん中に飛び込んで大暴れして時間を稼ぐとか……いろいろあるでしょ?」
アメリアはそう言って誠の顔を覗き見た。
誠は誰も構ってくれないのをいいことに、一人、串焼きを連続して口に運んでいるところだった。
「あの……僕にそんなことできるんでしょうか?」
間抜けな調子でそう言った誠に、アメリアは呆れたような視線を送っていた。
「できるわよ、敵さんだっていつあの『光の
そう言って自信のない誠をアメリアは励ました。
「確かにそう言われると敵にそんなのが居ると面倒なのは理解できた。分かったよ。とりあえず人間扱いしてやる……まあすぐにメッキははげるだろうがな」
かなめはそう言って葉巻をくゆらせる。誠はただ何もできずに笑っていることしかできなかった。