第26話 新たな同居人の存在
「まあ俺の自慢はこれくらいにして。それより、遅くともこいつが来月にはうちに通うことになるから」
嵯峨はそう言ってにやりと笑ってみせる。
「えっ!!この人、うちに来るんですか?弁護士がうちで何をするんですか?茜さんってパイロット教育でも受けてるんですか?ああ、『法術特捜』がうちに来るってことですか……でもそれだったらなんで東都に本部を置かないんですか?こんな田舎、事件が有ったらすぐに対応できないじゃないですか」
金髪美女の配属は誠にとっては正直うれしかったが、そう言うと嵯峨にさらに罠にはめられると思って誠は驚きの表情を控えて嵯峨にそう言いかけた。
「別にシュツルム・パンツァーとは関係ねえんだ。警察軍事実働部隊の『特殊部隊』であるうちとは連絡を密にする必要があるんだと。まあ、どうせ『法術特捜』にあてがわれる法術師なんざ数も質もあてにならないだろうからな。実質、俺やランや『かの有名な近藤事件』の勇者であるお前さんに助けを求めることもあるだろうと……上の連中もなかなか考えてるよ。週に一度東都の司法局本部に出頭する以外はずっとここで生活することになる」
そう言う嵯峨の口調は誠にはどこか誇らしげに見えた。
「でも……僕より二つ上で……そんな組織のトップをやるなんて……凄いですね」
誠は正直に嵯峨を持ち上げるつもりでそう言ってみた。
「そりゃあ、官僚組織の『キャリア』で、『司法試験』合格者だもん。警部で軍で言えば中隊規模の組織のトップなんて普通じゃないの?」
「『キャリア』!国家公務員試験の一種受かったんですか!」
ひっくり返るような声で誠はそう叫んだ。東和共和国の政府官僚の最難関試験である国家公務員試験一種は就職活動の時誠が最初に諦めた試験だった。
「ああ、14歳で司法試験に受かった『神童』だもん。あいつは俺に似て頭が良いから。見てくれはかみさん似で、中身は俺に似たわけ。俺も司法試験通って弁護士の資格は取ってるけど……まあ、その弁護士事務所を食えるような仕組みにしたのは茜だけどね。でも弁護士をやってたら国は変えられないってことでキャリア試験を受けたんだ。弁護士事務所の仕事の片手間で受けて受かっちゃうんだから親としては褒めてやるべきだろうな」
次々ととんでもないことを言い放つ嵯峨に誠はあんぐりと口を開いたまま見つめ続けるほかにしようがなかった。
「まあ……仲良くやってと言いたいところだが……茜の相手は苦労すると思うよ、お前さんは。俺と似て頼りにならない感じだもん。茜は完璧主義者でね。お前さんみたいに社会人失格の人間を見るとほっとけない質なんだ。いらぬ世話を焼かれるのが結構つらいものだってのは俺も骨身に染みて分かってるから……覚悟しときな」
嵯峨はあっさりと誠を自分と同類扱いして見せた。
「ほっといてください!僕は隊長とは似ていません!僕は文系の知識が足りないだけです!」
部隊長の嵯峨の言葉に、正直誠は反発していた。
嵯峨はゴミだらけの部隊長室をはじめとする、『駄目人間』を代表するような男である。誠の部屋は嵯峨の惨状に比べればかなりましだった。
「そう言えば……隊長は小遣いを茜さんから貰ってるんでしたっけ?」
せめてもの反撃として誠はそう切り出した。
「そうだよ……俺は資金面での計画性は茜に任せっぱなしだから。あんまりね……金を稼ぐのは俺は得意じゃねえんだ」
嵯峨の言葉に誠はやはりと思いながらタバコをくゆらせる嵯峨を見つめていた。