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第25話 現代の『騎士』

「貴族主義が嫌いってことですね。じゃあ、かなめさんのお父さんみたいに貴族の位を誰かに譲って平民になればいいのに」

 訳も分からずそう言う誠に嵯峨は諦め半分のため息をついた。

「俺もそうだがあの国にはいい思い出が一つも無いんだよ」

 誠にもそれは理解できた。愛するものを奪った国。そこに未練を持つ方がどうかしている。誠は嵯峨と茜の甲武国を捨てた感情は理解できた。

「でも、アイツはかなめの親父、つまり俺の義兄(あにき)と違って、貴族の存在自体はあまり気にしてないみたいだね。かみさんがゲルパルトの貴族の出だから。本人も自分を『騎士』だって言ってるし……」

 かなめの父、西園寺義基が反貴族主義の政治家なのは誠も知っていた。貴族の地位を嫌ってその地位をかなめに譲った結果かなめが色々問題行動を行っているので嫌と言うほどわかっていた。

「騎士ですか……『サムライ』じゃなくて?」

 誠は貴族のことはよくわからないのでただ呆然と嵯峨の言葉を繰り返すだけだった。

「サムライは士族だよ。甲武の武家だな。俺は公家の出だから連中の考えていることは分からん。俺のかみさんの国、当時の『ゲルパルト帝国』にはドイツ系には『騎士』の貴族が少なからずいるんだ。俺のかみさんは甲武びいきのゲルパルト貴族で『社交界の華』と呼ばれてたんだ……。あっ!疑ってるなその顔!俺がそんな『社交界の華』を落とせるなんて信じてないんだろ!まあ事実だもの。これは俺のちょっとした自慢」

 嵯峨はそう言ってにやけてみせる。

「でも……隊長がそんな『社交界の華』と結婚してたなんて信じられませんよ。アレですか?援助交際とかですか?」

 信じられない事実に直面した誠はとんでもないことを口走った。

「なんで金に困ってない貴族様が援助交際をするんだよ。確かに当時俺は『西園寺新三郎』って名前で甲武国一の貴族の家、西園寺家の一員だったからな。当時は金に困ることは無かった。金のことを考えるたびに当時に戻りたくなる。当時はそれこそ金と地位のある色男ってことでモテたもんだね……女って残酷だよね。金がないとなると途端に相手をしてくれなくなる。ああ嫌だ嫌だ」

 嵯峨は諦めたような調子でタバコをふかしながらそう言った。

「で、それと娘さんが『騎士』を名乗っているのとなんか関係が有るんですか?その話」

 『騎士』と言う古風な考え方について誠は詳しく知りたくなった。

「茜が言うには『騎士は気高く庶民の盾となって戦う高貴な存在』らしいわ。だから、庶民を不当な弾圧から守るために法律家になって弁護士の資格を取った。14歳で司法試験合格ってのはなんでも東和共和国の記録らしいや。俺も優秀な娘を持って鼻が高い」

 自慢げに嵯峨がそう言うのを聞いて誠は少し茜にやきもちを焼いた。

「立派な娘さんですね。親とは大違いだ」

 誠は皮肉を込めて嵯峨の得意の鼻をへし折るべくそう言った。

「言ってくれるねえ……まあ、言われてもしかたねえか……まあ、俺はプライドゼロの男として売ってるから。気にはしないよ」

 皮肉で言ったつもりが開き直って逆に笑い返す。嵯峨と言う男はそう言う男だった。

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