大丈夫
「おいおい、マジでなんか出そうな空き家だな」
かび臭い臭いが漂い、壁には染みができていたし、埃をかぶった家具が、そのままだった。二階へと続く階段から薄気味悪いうめき声を上げて何かが,這い降りてきそうな雰囲気に、私の彼はビビっていた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと古いだけ、事件があったのはずいぶん昔だし、近所の小学生もよく肝試しに入ってるって、まさか、入ったら呪われて殺される怖い家だと思ってるの? 映画じゃあるまいし」
その肝試しに入った小学生の何人かは毎年、行方不明になるという事実を私は彼に伝えなかった。
「ね、ね、美穂、本当に大丈夫なの?」
私と雄二と二人だけで探検するはずだったのに、勝手についてきた明美が、目の前で、怖がって人の彼氏である雄二にしがみついていた。
「大丈夫、大丈夫、明美、あんた、なに人の彼氏にべったりくっついているのよ」
一応彼女として注意するが、明美は少しも悪びれることもなく言い返した。
「だって、マジ怖いんだもん」
「そんなに怖がるんだったら、私たちについてこなければいいでしょ。勝手についてきたくせに」
そうなのだ、本当なら彼の腕にしがみついているのは、私のはずだったのに,明美が勝手についてきて、私たちの邪魔をしていたのだ。
「おいおい、そんなにくっつくなよ、暑いだろ」
私の視線を気にしてか、雄二も一応は嫌がる振りをするが、強く拒絶はしない。いいわ、いちゃいちゃしてなさい。あんたたちが私に隠れてやってるのは分かっているから、いまさらそんな隠し事には嫉妬しない。
もう嫉妬を通り越して二人には、殺意しかなかった。
三人で遊ぶのは嫌いじゃなかった。だが、わたしと雄二が恋人として付き合いだしたのに、それに割って入るように明美は友人面してずっと付きまとい挙句、わたしに隠れて雄二と寝たクソ女、私を裏切ったヤリマン。明美も雄二も、私にとっては死んで当然のふたりだった。だから、この家の本当の怖い噂は隠して、雄二を空き家の肝試しに誘った。明美が聞きつけて勝手についてくるのも計算のうちだった。雄二だけに伝えれば、のけ者にされたとムキになって明美が付いてくると思ったからだ。
すべては計画通り。そして、この家の呪いについて本当ことを、二人に、教えるつもりは当然なかった。
「おい、おい、いま、マジで、二階から、変なうめき声聞こえなかった?」
「うん、私も聞こえた」
雄二と明美が私を見る。
「え、私は聞こえなかったけど、なんなら二人で二階観てきたら? ノラ猫でも入り込んでるんじゃないの」
さぁ、いよいよだ。私は事前に用意してきた魔よけの札がポケットにあるか確認する。これで私だけは助かるはずだと思っていたが、私たちは三人とも行方不明になった。