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第24話 遼州人の混血児の『遺伝的特徴』

「それより、お前さんは茜の顔を知らないんじゃないの?アイツは久しくお前さんの家にはここしばらくは行ってないはずだから……俺は最近でもしょっちゅう通ってるけど……ああ、ちょっと待って」

 嵯峨はそう言うと通信タブレットをズボンのポケットから取り出していじり始めた。

「なんですか?美人だって自慢したいんですか?」

 さすがにおもちゃにされている自覚はあるので、誠は少し腹を立てながらそう言ってふくれっ面をした。

「はい、これ」

 
挿絵


 通信タブレットを手にした嵯峨はその画面を誠に向けた。

 そこには長い金髪の美女が映っていた。鼻筋が通ったヨーロッパ系の面差しはどう見てもアジア系に見える嵯峨とは異なって見えた。見た目だけでは彼女が嵯峨の娘だとは誠にはとても信じられなかった。

「綺麗な方ですね……でも……ちょっと遼州人ぽく無いですね。失礼ですけど……隊長の奥さんって『ガイジン』ですか?と言うか隊長に全く似てないじゃないですか。本当に隊長の娘さんなんですか?隊長の奥さんって『男癖』が悪かったって聞いてますから……実は浮気した時にできた子供なんじゃないですか?」

 再びタバコを取り出して火をつけると非喫煙者の誠に遠慮することなく悠然とタバコをくゆらせる嵯峨に、誠は聞いてはいけないことなのかもしれないと思いながら遠慮がちにそう言った。

 その言葉に嵯峨は特に気にする様子もなく素直に頷いた。

「ひどいこと言うねえ。実はかみさんとはできちゃった婚でな。そん時にDNA鑑定してるから間違いなく俺の娘だ。実際、俺が娘を連れて甲武から東和に来て、小学校に編入する時も担任から同じようなことを言われた事が有った。そんなこともあるだろうと、DNA鑑定の鑑定証を甲武から持ってきておいて見せたんだ。用意が良いだろ?俺って」

 表情も変えずに嵯峨はそう言った。

「地球人のほとんど居ない東和共和国では遼州人と地球人の間の『混血児』なんてほとんどいないわけだが。宇宙の地球人の国では移民した遼州人との間に混血児が生まれることがある。その時に遼州人の遺伝的特徴が明らかになることが多いんだ」

 確かにほぼ地球人のいないここ東和共和国で生きてきた誠の周りには地球人との混血児は一人もいなかった。

「遺伝的特徴?何か変わった現象でも起きるんですか」

 嵯峨の言う通り、東和共和国には地球人はほとんどいなかった。どう見ても地球の東アジア系の顔をした遼州人が闊歩しているのが東和共和国だった。

「それが、起きるんだな。第四惑星のゲルパルトは地球のドイツ系やらフランス系やらの白人がほとんどの国だ。そう言う国で明らかになったんだが、遼州人の外見の特徴はその子供に全く遺伝しないんだ……奇妙な話だが事実なんだからしかたがない」

 ここ、遼州星系では東和共和国と隣の大陸になる『遼帝国』だけが、遼州人がほぼ全員を占める国だった。他の国はほとんどが地球系の移民で構成され、遼南共和国が経済的に破綻していた間に豊かさを求めて他国に移民した際に混血児が生まれる可能性があること位しか誠には混血児に出会うことが想像できなかった。

「外見の特徴が遺伝しない?親と似ないんですか、見た目が?」

 誠は初めて知らされる事実に当惑しながらそう答えた。

「だから、金髪美人だったかみさんに似て、茜も金髪美人。誰が見てもゲルパルトや外惑星連邦出身者だと思うだろうな。でも、俺の子供で生まれたのは甲武国。まあ、甲武国の貴族制が気に入らなくて国籍を東和共和国に変えてるがな。アイツも西園寺家の家風に染まっていて貴族主義とは相性が悪いんだわ」

 嵯峨はそう言うと旨そうにタバコをふかした。

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