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第23話 法術特捜設立について

 嵯峨惟基はいつも通り自分を不思議そうに見つめてくる誠を見ながらゆったりと構えてタバコをくゆらせていた。

 これがいつもの誠の見かける嵯峨の終業後の姿だった。

「いつも暇そうですね」

 誠はきついタバコの匂いに閉口しながら、隊長である嵯峨に嫌味を言ってみた。

「言うねえ……まあ、いつもトレーニングのランニングで毎日20キロ走らされているおまえさんにはそう言う権利があるか。まあ、息抜き。部下の顔色を見るのも隊長のお仕事だから」

 嵯峨はそう言って誠の嫌味を受け流した。

「そう言えば、うち以外に法術関係の捜査の専任機関として『法術特捜』とか言う組織ができるんですよね、隊長の娘さんが仕切って……」

「らしいね」

 誠のとりあえず言ってみた話題に嵯峨は素っ気なくそう答えた。

「らしいって……うちの部隊と対をなす組織の上に、隊長の娘さんがそのトップになるかもしれないんですよ!もっと何か……その組織がどう言う組織なのか説明するとか、隊長らしいところを見せてくださいよ」

 明らかにやる気のない嵯峨の言葉に呆れながら誠はそう口走っていた。

「そんなカリカリしなさんなって。お前さんがいくら叫んでも状況は変わらないよ。俺は前からそんな組織が必要になるってさんざん上申してたんだから。遼州同盟のお偉いさんが重い腰を上げただけ。とりあえず形だけの『法術対策』とやらをやろうって話だ。連中の考えそうなことはすべてお見通しだよ。それに茜の件ならアイツはおまえさんより二つ上、26だ。大人だよ。俺に小遣いをやって更生させようとしているくらいだもの。俺なんかがどうこう言う話じゃないんじゃないかな」

 相変わらず嵯峨はのらりくらりと誠の詰問を受け流す。

「でも一応、隊長の上申が通ってできた組織のトップになるんでしょ?お父さんとして部隊長の心得とか助言くらいしてあげればいいのに」

 誠はまるで娘のやることに関心がないような調子の嵯峨にそう言った。

「大人が大人に意見するのは本当に相手が間違っている時だけで良いと俺は思うよ。親心なんて言う言葉があるが、子供からしたらそれはただ迷惑なだけだよ。そこら辺のけじめはしっかりつけろって俺の義父(おやじ)が言ってたの、思い出すなあ」

 昔話をするように嵯峨はタバコをくわえながら遠くを眺めるような目つきをした。

「でも『法術特捜』の設立を上申したのは隊長でしょ?」

 誠はなんとか彼を煙に巻こうとする嵯峨に食い下がった。

「そうだよ。うちはシュツルム・パンツァーの運用が主任務だ。警察で言うところの『機動隊』みたいなもんだな。ところが法術の問題は根深い。じっくり時間をかけて問題がまだ表面化していない段階から調査して違法行為が行われていないか検証する必要がある。そのための組織が『法術特捜』」

嵯峨はそう言いながら相変わらずタバコをくわえてニヤニヤ笑っている。

「じゃあ、『刑事』みたいなことするんですね。隊長は以前憲兵をやっていたって噂で聞きました。その時の経験とかを教えてあげても良いんじゃないですか?」

期待するだけ無駄だが、誠はまだ嵯峨に親らしい感情を期待していた。

「憲兵と警察は違うよ。それに尾行の人によってコツがあってね。それぞれ実地で自分の力で身に着けていくもんだ。そんな俺と娘じゃそもそも役割が違いすぎて助言のしようがない」

 身も蓋も無いことをあっさりと嵯峨は言って見せた。

「立場が違いすぎて助言できないといわれると……」

 話題に詰まった誠を嵯峨は嫌らしい笑みを浮かべつつ見上げた。

「だから言ってるじゃない。茜は大人なんだって。お前さんもそうだ。自分の事は自分でできるようになって、初めて社会人だ。せいぜい精進しな」

 嵯峨は誠を笑い飛ばすような笑みを浮かべながら吸いかけのタバコを灰皿に押し付けた。

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