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323 報告

 「ルナと会ったあと、オルハン先輩と……」

 ウテナは覚えている限りの、ジンとの戦いの詳細をムスタファに話し始めた。

 ――バタッ!

 「ウテナ!!」

 話していると、勢いよく扉が開き、ルナが飛び込んできた。

 「ルナ!あなた、外に出てだい……」

 ウテナが言う間もなく、ルナはウテナに抱きついた。

 「よかった……」

 ギュッと、ルナの細い腕で抱き締める力が、ウテナに伝わる。

 「ルナ……」

 《あなたは、本当に、ルナさんを大切に思っているのですか?自分の欲求を満たすための道具にしているんじゃないですか?》

 ジンの問いかけが、ウテナの脳裏をよぎる。

 ……そんなことを思ったことなんて、一度もない!

 ウテナは、頭の中に砂嵐のように吹き荒れる、ジンの言葉を振り払った。そして、いま目の前で、自分を心配してくれるルナを、ギュッと、抱き締め返した。

 「……大丈夫よ、ルナ」
 「うん……」
 「ルナ、こちらへ座りなさい」

 ムスタファはイスから立ち上がった。

 引き続き、ウテナはムスタファへ報告を続ける。立ちながら、ムスタファはウテナの話を聞いて筆を走らせ続けている。

 「やっぱり、マナトさんに化けてたのね……」
 「ふむ、頭を吹き飛ばしても、再生したか……」
 「灰色の肌に、赤い眼球、巻き角……」

 ウテナの話を聞きながら、所々、ルナとムスタファが驚嘆の声をあげていた。

 「……んっ!?いま、ジン=シャイターンと……!?」

 ムスタファが、ここまで走らせていた筆を止めた。

 「はい、やられる前に、ジンが言ってました」
 「……」

 ムスタファは、筆を置いた。

 そして、ムスタファは持ってきた袋の中から、別の紙を取り出して、テーブルの上に広げた。

 「お父さま、それは?」
 ルナが聞いた。

 「これは、ウームーの書簡。ここに、ジンの種類が書かれている。それを、私が模写したものだ。ここに、たしか記述が……」

 そう言うと、ムスタファはそこに書かれている記述をなぞった。

 「……見つけたぞ。ジン=シャイターンの箇所だ」

 ウテナとルナも、その部分も読んだ。

   その真なる姿は人に似たるも、
   いかなるジンより悪しき心で、
   この地に下りて人に寄り添う。

 さらに、この後の記述には、

 「たくさんの国や村が、このジン=シャイターンの出現により、災いと崩壊の一途をたどるであろう……」

 書かれている記述をそのまま、ウテナは読んだ。

 「……」

 誰も、言葉を失い、重い空気が、部屋に漂う。

 「……フゥ~」

 ムスタファは、天井を仰ぎながら、深呼吸した。

 「ウテナさん、もう少し、詳しく聞かせてほしい」
 「あっ、はい」
 「我々は、諦める訳には、いかないのだ」
 「……はい。……そうですよね」

 ムスタファの、青い瞳が、まっすぐにウテナを見つめていた。

 (メロ共和国、ジンの横行 終わり)

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