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第17話 圧倒される誠

「失礼しまーす」

 遠慮がちにカーテンを開いた誠は中のおばちゃん達の休憩室として使われているらしい小部屋に入り込んだ。

 給湯室らしくミニキッチンなどが設置されたその部屋の中央にはテーブルが置かれ、六人の四十代から五十代くらいの女性が談笑に花を咲かせている最中だった。

「いらっしゃい!どうも……初めて見る顔ね……もしかしてあの『近藤事件』で『光の(つるぎ)』で敵をなぎ倒した『英雄』の誠君?あらやだ、素顔を見られちゃった。今日はちゃんとお化粧しておけば良かったわ」

 おばちゃん達の中央で話題を仕切っていた小柄な丸顔の中年女性が誠に向けてそう言った。

「今度配属になった神前誠です。挨拶が遅くなってすいません」

 誠はどうやら歓迎してくれるらしいおばちゃん達の雰囲気に心から申し訳ない気持ちを持ちながらそうつぶやいた。

「何言ってるのよ!パイロットはうちの花形なんだから。私達パート職員には手の届かない存在なの」

「そうよ、この部隊には若い独身の女の子が沢山いるんだから。こんなおばさん達の相手をしてくれるなんて最初から期待してないわよ……でも気を利かせて挨拶してくれるなんて。私の娘のお婿さんにもらおうかしら?」

「あなたの娘さんはまだ中学生じゃないの。早いわよそんなの」

「お芋食べる?サツマイモ。昨日お隣さんからたくさんもらって、朝ふかして持ってきたんだけど食べきれなくて……。ささ、パイロットは体力勝負なんだからお弁当だけじゃ足りないでしょ?食べなさい、食べなさい」

 パートのおばちゃん達は見慣れない誠に物怖じすることなく話しかけてくる。そのマシンガントークにやられながら、おばちゃん達の圧に負けた誠は仕方なくメガネのおばちゃんが差し出したサツマイモを受取った。

「それじゃあいただきます……それにしても本当に挨拶が遅くなって」

 誠はホクホクして意外に美味しいサツマイモを頬張りながらそう言った。

「良いのよ、どうせあの部長代理のことが気になってたんでしょ?あの人、仕事はできるんだけど愛想が悪いし、暇ができるとなんかいつもここで島田君と誠さんの悪口を言ってるし……。だから女の子にモテないのよ。ああ、挨拶がまだだったわね。ここのパートリーダーの白石です」

 最初に誠に声をかけてきた小柄な中年体形の白髪交じりの女性が誠に向けてそう名乗った。

 誠は予想通りの白石さんの柔和な表情に安心すると同時にもう誠に関心を失って別の話題で盛り上がっている他のパートのおばちゃん達のバイタリティーに圧倒されていた。

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